こんにちは。
今回は「ジュニアアスリートへの栄養教育」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「臨床スポーツ医学 2018年11月号 現場で使えるスポーツ栄養学」を参考にさせていただきました。
筆者は京都産業大学 現代社会学部 健康スポーツ社会学科 教授 吉岡美子氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://chibajets.jp/team/staffs/koido/
はじめに
さて、早速本題に入りたいと思います。
なぜ小学生から栄養の教育が必要なのでしょうか?
近年は地域のスポーツクラブや学校での部活動など、低学年の頃からスポーツ活動に取り組む傾向がみられます。スポーツ活動により身体活動量が増加するため、栄養が不足する危険性が高まります。
小学生から高校生までの期間は発育・発達過程において大きく成長する時期です。特に、小学生高学年から高校生までの成長期は、心も身体も大きく成長する期間です。成長に伴って栄養やエネルギーもその分多く必要になります。そのため、スポーツ活動に関係する指導者、選手、保護者の方々においては「栄養」への関心が高い分野だと思います。
一方で、朝食の欠食など、日常の基本的な食習慣や生活習慣が乱れている選手が増加しています。運動能力と朝食の摂取には相関が見られ、非常に重要な要素を占めています。
パフォーマンス向上のための栄養摂取を考える前に、日常の基本的な食生活や生活習慣を見直し、成長期の成長に見合った栄養や食事に関する知識をアップデートすることが最優先です。
本稿では、成長期のアスリートに必要な栄養の知識を習得して、セルフマネジメント能力を獲得するための一助になることを願っています。
Scammonの発育曲線
成長期のアスリートの栄養・食生活の基本的な考え方は、「身体が成長していく時期を考慮しながら、スポーツ特性に合わせた栄養や食事に関する基本的な知識を身につけ、セルフマネジメント能力を獲得していくこと」です。
Scammonの発育曲線というグラフがあります。これは、出生児を0%、20歳時を100%としたときの発育の変化をグラフ化したものです。
「一般型」は身長や体重の発育を表しています。一般型は、幼児期と思春期で二峰性に成長のピークを迎える特徴があります。学童期の身長の成長速度は年齢に比例して減速します。女子では9歳頃、男子では10歳頃に年間身長増加率は最低となります。その後、思春期で身長の成長がラストスパートに突入します。
「神経型」は神経系の発育を表しています。神経型は6歳で約90%まで成長する特徴があります。
「リンパ型」はリンパ系の発育を表しています。リンパ型は思春期で成長のピークを迎える特徴があります。
「生殖器型」は生殖器の発育を表しています。生殖器型は思春期に成長のピークを迎える特徴があります。
Scammonの発育曲線は、個人差や性差が大きいことや、発育と発達時期が完全に一致するものではないことを考慮しなければなりませんが、発育・発達の全体像を捉える点においては、非常に有効なグラフです。
発育・発達に沿った基本的な食生活
身体の成長には、必要なエネルギーを十分に摂取し、各栄養素の役割を理解して摂取する必要があります。成長期の選手では、以下のエネルギーが必要となります。
(1)基礎代謝に要するエネルギー
(2)身体活動に要するエネルギー
(3)組織増加分のエネルギー(エネルギー貯蓄量)
(4)スポーツ活動に必要なエネルギー
さらに、先述した通り、近年は地域のスポーツクラブや学校での部活動など、低学年の頃からスポーツ活動に取り組む傾向があります。スポーツ活動に取り組むことで、以下のエネルギーが必要となります。
推定エネルギー必要量の算出方法
推定エネルギー必要量は下記の計算式で算出することができます。
<推定エネルギー必要量(kcal/日)>
推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル+エネルギー蓄積量(kcal/日)
<基礎代謝量(kcal/kg)>
年齢 | 男性 | 女性 |
6〜7歳 | 44.3 | 41.9 |
8〜9歳 | 40.3 | 38.3 |
10〜11歳 | 37.4 | 43.8 |
12〜14歳 | 31.0 | 29.6 |
15〜17歳 | 27.0 | 25.3 |
<身体活動レベル>
年齢 | Ⅰ(低い) | Ⅱ(普通) | Ⅲ(高い) |
6〜7歳 | 1.35 | 1.55 | 1.75 |
8〜9歳 | 1.40 | 1.60 | 1.80 |
10〜11歳 | 1.45 | 1.65 | 1.85 |
12〜14歳 | 1.50 | 1.70 | 1.90 |
15〜17歳 | 1.55 | 1.75 | 1.95 |
Ⅰ(低い) : 1日で座っている時間が大半を占める状態
Ⅱ(普通) : 1日で座っている時間が多いが、家事・ショッピング・通学などを含む状態
Ⅲ(高い) : 1日で経っている時間が大半を占める状態 or スポーツをしている状態
<エネルギー蓄積量(kcal/日)>
年齢 | 男性 | 女性 |
6〜7歳 | 15 | 20 |
8〜9歳 | 25 | 30 |
10〜11歳 | 40 | 30 |
12〜14歳 | 20 | 25 |
15〜17歳 | 10 | 10 |
先述した通り、成長期の選手はより多くの栄養やエネルギーが必要となり、身体の発育・発達に見合ったものが不足しないような食事管理が必要となります。
栄養素の不足はスポーツ活動において阻害因子となる様々な症状を引き起こします。そこで、栄養素のバランスを考慮し、「栄養素の種類」、「調理法」、「量」などを選手と保護者が協力して食事に対する意識をアップデートすることが重要となります。
アスリートの理想的な献立
食事は「主食」、「主菜」、「副菜」に加え、運動により消費した栄養素を補うために「乳製品」、「果物」を補ったアスリートの食事の基本型を活用してください。
1.主食
「主食」はエネルギーの供給源としての役割があります。
主にごはん、パン、麺類などが糖質の摂取源となります。
スポーツにおいて糖質は最も重要な栄養素と言っても過言ではありません。なぜなら、グリコーゲンという物質がエネルギー源となるからです。
しかし、体内に貯蔵されているグリコーゲンの量は脂質と比較して多くはありません。標準的には、骨格筋1kgあたり約15gのグリコーゲンが貯蔵されています。体重が70kg、体脂肪率が10%前後の成人男性の場合、筋グリコーゲンの総貯蔵量は約400gであると推算されます。肝臓に貯蔵されているグリコーゲンを合算しても、2000kcal程度のエネルギー量しか有していません。長時間に及ぶ試合やトレーニングやよって貯蔵量が著しく消費してしまいます。
そのため、グリコーゲンを食事から摂取しなければなりません。
一方、エネルギー源としては脂質の役割も大きいです。
脂質は油、ナッツ類、マヨネーズから摂取することができます。
しかし、現代の食生活では、過剰に摂取している傾向があり、脂質の摂取源ともなる左記の食品の摂取は注意が必要です。
1日あたりのエネルギー消費量は競技によって異なりますが、先述の(1)〜(4)に必要なエネルギーを確保する必要があります。
「主食」の役割が大きいことを理解して、試合後や練習後に確実に摂取することが大切です。
2.主菜
「主菜」は筋肉、血液、骨格など身体づくりに必要となります。
主に魚、大豆、卵、肉、乳製品などが蛋白質の摂取源となります。
特に成長期の場合は、魚より肉が中心の食生活になりがちですが、様々な種類の食品から蛋白質を摂取することが身体づくりにとって重要です。
3.副菜
「副菜」は身体機能の調節をする役割があります。
主に芋類、海藻、果物、野菜が食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取源となります。
ビタミン類はエネルギーの代謝を円滑にする重要な役割があることから毎回の食事で摂取することが理想です。味噌汁の具も副菜の1品と捉えると、野菜類も無理なく摂取することできます。
4.果物、乳製品
「主食」、「主菜」、「副菜」だけでは不足しがちな栄養素を「果物」や「乳・乳製品」で補います。
果物には食物繊維やビタミン類豊富に含まれているため、積極的に摂取することが理想です。
乳製品はカルシウムが豊富に含まれていることは周知の事実だと思います。骨の成長や強化には必要不可欠な食品です。日本では、アスリートを対象としたカルシウムの摂取目標量は存在しませんが、成長期のアスリートの場合、毎食摂取することが理想的です。
しかし、日本人のカルシウムの摂取量は減少傾向にあります。
カルシウムの摂取量を増加させることも重要ですが、摂取したカルシウムを効率的に吸収することも重要です。
そのためには、ビタミンDおよびビタミンKの摂取が必要不可欠です。
給食の役割
特に、小学生と中学生にとって学校給食の果たす役割は非常に大きいです。
年齢 | エネルギー | カルシウム | 蛋白質 | 鉄 | 糖質 |
kcal | mg | %エネルギー | mg | %エネルギー | |
10〜11歳 | 780 | 360 | 12〜20 | 4 | 20〜30 |
12〜14歳 | 830 | 450 | 13〜20 | 4 | 20〜30 |
しかし、学校給食のある日と比較して、ない日のカルシウムと鉄の摂取量は少なくなる傾向にあります。特にカルシウムはどの学年においても給食のある日の約3分の1の摂取量ということが報告されています。また、給食のある日であっても、必要量を満たすことができていない状況です。
TID事業
成長期のアスリートの場合、実際に食事作りを担当している保護者の協力が必要です。
全国各地でタレント発掘・育成事業(Talent Identification and Development:TID)が展開されています。
今回は、TID事業の具体的な内容は割愛させていただきますが、お住まいの地域でTID事業が行われていないか調査して参加してみることも頭の片隅に置いていただくと嬉しいです。
今後の課題
年齢に比例して1日に必要な栄養素やエネルギーを朝・昼・夕の3食だけでは摂取できなくなる場合が出てきます。その場合は、捕食が必要となります。しかし、成長期のアスリートは運動後に清涼飲料水などで空腹を満たすことで食事が十分に摂取できなくなる場合があります。このような行動が習慣化することで、エネルギー、カルシウム、鉄、ビタミン、ミネラルの不足に陥るため、注意する必要があります。
また、不足している栄養素をサプリメントで補うという選手が散見されます。しかし、成長期は食習慣と生活習慣を見直し、食事から栄養やエネルギーの必要量を摂取することが理想的です。
選手自身が日々の食事や生活を記録・自己評価し、医師、看護師、管理栄養士、理学療法士が日誌の内容に目を通し、コメントする体制は重要です。継続的に支援することで食事に対する意識が向上し、食生活が改善されます。
しかし、毎日の食事や生活を記録するという行動は、セルフマネジメント能力の獲得に有効な方法ですが。選手や保護者が負担を感じるという課題があります。
そのため、「知識」を「習慣化」するためには、指導者、選手、保護者が三位一体となって栄養に対する意識をアップデートさせることが重要です。
しかし、「楽しんで食事をする」ことが成長期のアスリートへの栄養教育では最も大切なことです。
この経験が成長期のアスリートのセルフマネジメント能力を獲得するための近道だと考えています。