こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「運動時の体温調節〜発汗と皮膚血管拡張がキーワード〜」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「臨床スポーツ医学 2018年月号 暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-」を参考にさせていただきました。
筆者は新潟大学 教育学部 准教授 天野 達郎氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://researchers.adm.niigata-u.ac.jp/html/200000913_ja.html
はじめに
運動時には筋活動により多量の熱が産生されます。
以下の条件で産生された熱が身体外に放散されないと仮定した場合、深部体温は42℃まで上昇する計算となります。
競技 : ジョギング
時間 : 30分
性別 : 男性
体重 : 65kg
体温の基準値は36.0〜37.0℃です。
深部体温が42℃まで上昇してしまうと生命活動を維持することができません。
人間は“発汗”と“皮膚血管拡張”による熱放散によって、体温を35.0℃〜41.5℃の範囲で維持するようにプログラミングされています。
今回は、運動時の体温調節について最新の知見を交えながら解説したいと思います。
体温調節
体温調節には“行動性体温調節”と“自律性体温調節”があります。
○行動生体温調節
行動生体温調節とは、意識的に行う熱放散です。
例)エアコンを点ける、日陰に移動する、冷水浴をする など…
○自律生体温調節
自律性体温調節とは、自律神経系によって無意識的に行う熱放散です。
例)汗をかく、呼吸数が増加する、尿量を減少させる など…
今回は自律性体温調節にフォーカスを当てて解説します。
熱産生と熱放散のバランス
自律生体温調節には“温熱性熱放散”と“乾熱性熱放散”があります。
○温熱性熱放散
温熱性熱放散は、環境温>皮膚温の場合の熱放散です。
○乾熱性熱放散
乾熱性熱放散は、環境温<皮膚温の場合の熱放散です。
体温を調節するには“発汗”と“皮膚血管拡張”が重要です。
高強度の運動でトレーニングや猛暑日をイメージしてください。発汗量が増加しますよね?
高温多湿の環境下での安静時皮膚血流量は約6L/minに及ぶこともあります。
1gの発汗で0.585kcalの気化熱が放散されます。
体重が70kあると仮定した場合、100gの発汗により体温が1℃低下するという計算になります。
つまり、脱水の状態では汗を産生できず、熱中症を発症する危険性があります。
また、血液がドロドロになることで細胞に酸素が供給できずに意識障害などの重篤な障害を発症する危険性もあります。
体液を一定に維持するには水分摂取量=水分排泄量となる必要があります。
○水分摂取量
・飲水量 : 1200ml〜1400ml ※季節によって変動する。
・食物中の水分 : 800〜1000ml
・代謝水 : 300ml
合計 : 2500ml
Q.代謝水とは?
A.栄養素が代謝される際に産生される水分を指します。
脂肪 | 100gが酸化されて109mlの水分が産生される |
蛋白質 | 100gが酸化されて45mlの水分が産生される |
糖 | 100gが酸化されて60mlの水分が産生される |
○水分排泄量
・呼気 : 300ml
・尿 : 1500ml ※飲水量によって変動する。
・皮膚 :600ml
・便 : 100ml
合計 : 2500ml
水分摂取量を維持することも重要ですが、水分排泄量を維持することも同じくらい重要です。
なぜなら、恒常性(homeostasis)を維持するには排尿による老廃物の排泄が必要となるからです。
尿量を維持するためにも、水分摂取量=水分排泄量となる必要があります。
運動時の体温調節の特徴
○熱産生
図は高温多湿の環境下で中強度の運動を繰り返した際の熱産生量と熱放散量の関係を示しています。
運動による骨格筋の収縮により熱産生量は急速に増加します。
一方、発汗や皮膚血管拡張による熱放散量は反応が遅れるため、身体内に熱が蓄積し、結果として深部体温が上昇します。
休息時は熱産生量が熱放散量を下回るため、深部体温が低下します。
ハーフタイム中にのクーリングがいかにパフォーマンスに影響を及ぼしてるかが一瞬で理解できると思います。
○熱放散
熱放散の機序は以下の通りです。
(1)運動時の骨格筋の収縮により熱が産生される。
(2)深部体温が上昇する
(3)視床下部に存在する体温調節中枢から汗腺や皮膚血管を支配している交感神経に情報が入力される
(4)発汗と皮膚血管拡張により体外に熱が放散される
運動時の体温調節に影響する要因としてを以下にまとめました。
○温熱性要因
温熱性要因は気温に影響を受けている因子を指します。
運動時の発汗や皮膚血管拡張による熱放散は深部体温の上昇に比例して直線的に増加していきます。
○非温熱性要因
非温熱性要因は気温に影響を受けない因子を指します。
主に以下のものが挙げられます。
・機械受容器 : 筋や腱の収縮を感知する受容器
・浸透圧受容器 : 血管の浸透圧を感知する受容器
・心理的刺激 : 緊張や不安で体温が上昇する反応
・セントラルコマンド : 意識的に運動を行う際に高位中枢が心拍数を増加させる反応
・代謝受容器 : 筋や腱のPhや温度などの変化を感知する受容器
・動脈圧受容器 : 血圧を感知する受容器
温熱性要因と非温熱性要因の情報が複合的に入力と統合が行われることで、運動時の体温調節が生じています。
おわりに
中強度〜高強度のトレーニングや試合で身体活動量が増加することで熱の産生も亢進します。
熱放散には“発汗”と“皮膚血管拡張”がキーワードだと何度も申し上げました。
脱水の状態では汗を産生できず、体温の上昇に歯止めが利かなくなります。
また、血液がドロドロになり、細胞に酸素が供給できずに意識障害などの重篤な障害を発症する危険性もあります。
これらのリスクヘッジのためにも水分摂取量=水分排泄量となるように工夫があります。
普段からコンディショニングの一環として日常的に取り組むことでパフォーマンスのレベルが向上する一助になることを願っています。