【医療・介護講座】介護予防とスポーツグループへの参加と効果〜スポーツは健康への最大の投資〜

【医療・介護講座】介護予防とスポーツグループへの参加と効果〜スポーツは健康への最大の投資〜

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「介護予防とスポーツグループへの参加と効果〜スポーツは健康への最大の投資〜」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「理学療法ジャーナル 2020年3月号 地域における予防の効果」を参考にさせていただきました。

筆者は帝京大学 保健師 金森悟氏です。

リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。

http://www.med.teikyo-u.ac.jp/~tsph/

はじめに

「健常者はスポーツをした方がよいが、障がい者はスポーツをしなければならない。」

この言葉はパラリンピックの陸上競技に出場した経歴のあるスイス人のHeinz Freiさんの言葉です。

地域には運動機能が低下した高齢者や障がい者だけでなく、生活習慣病予備群の方々など、様々な健康状態の方々が生活しています。

私は、病院に勤務していましたが、運動習慣がある方々は健康への投資ができているため、すぐに退院され、元通りの生活を送ることができます。

しかし、運動習慣がない方々は健康への投資ができおらず、元通りの生活を送ることはできません。

「運動しとけばよかった…」と後悔される方々を多く目にしてきましたが、後悔しても未来を変えるには遅すぎます。

介護予防のための運動に関するガイドラインは、“強度”・“種類”・“量”といった視点からのエビデンスに基づいて作成されてるものが大半を占めています。しかし、“人数”に着目したガイドラインは少数しか存在せず、今後も研究の余地があります。そのため、日本老年学的評価研究機関(Japan Agency for Gerontrogical Evaluation Study:JAGES)によって、スポーツグループへの参加が介護予防に効果的であるかどうかについて研究が行われています。

私は、恥ずかしながらJAGESという団体を存じておりませんでした。ホームページを拝見すると、様々な情報が発信されており、非常に質が高いと感じました。

リンクを掲載しますので、参考にされてください。

https://www.jages.net

今回は、スポーツグループへ参加することによる介護予防の効果にフォーカスを当ててお話ししたいと思います。

スポーツグループへの参加と介護予防

(1)スポーツグループに参加する効果

地域のグループへの参加と要介護認定との関連を検討した研究があります。結論として、不参加群と比較して要介護のリスクが有意に低かったのは、スポーツグループ(リスク低下率:34%)、趣味の会(同:25%)、町内会・自治体(同:15%)の3グループでした。

(図1)社会参加と4年間の要介護認定発生との関連(Kanamori Satoru,地域のスポーツグループへの参加と介護予防,理学療法ジャーナルVol.54 No.3 P285より引用)

左記の研究では、スポーツグループに参加することが介護予防に効果的であることが示唆されました。しかし、単純に運動が介護予防に効果的なだけで、「グループに参加する必要があるのか?」という疑問も残りますよね?

そこで、週1回以上の運動の実施の有無と、スポーツグループへの参加の有無を組み合わせた群と、要介護認定との関連を検討した研究が行われました。その結果、週1回以上の運動を実施して、スポーツグループにも参加している群と比較して、運動は実施しているが、スポーツグループには参加していない群で要介護のリスクが有意に29%高かったことが報告されました。

更に興味深い結果として、運動は実施していないが、スポーツグループに参加している群とは、有意差は認められませんでした。

なお、運動を実施しておらず、スポーツグループにも参加していない群は、要介護のリスクが有意に65%高かったことが報告されています。

(図2)運動・スポーツグループへの参加と4年間の要介護認定発生との関連(Kanamori Satoru,地域のスポーツグループへの参加と介護予防,理学療法ジャーナルVol.54 No.3 P286より引用)

このことから、スポーツグループに参加することは、様々なメリットがあることが示唆されます。

(2)スポーツグループへの参加と主観的健康感との関連性

運動の実施パターンと、主観的健康感との関連が検討されています。主観的健康感とは、自分で実感している健康度のことで、その後の死亡リスクを予測することが明らかにされている指標です。その結果、運動を実施していない群と比較して、どのような運動の実施パターンであっても主観的健康感が不良である者の比率は有意に低かったことが報告されています。

さらに、運動を実施している方のみを対象とした分析では、運動を「一人」でのみ実施している群と比較して、運動を「一緒」に実施している群では、主観的健康感が不良と感じている比率はいずれも有意に低かったことが報告されています。

(図3)運動の実施パターンと主観的健康感不良との関連(Kanamori Satoru,地域のスポーツグループへの参加と介護予防,理学療法ジャーナルVol.54 No.3 P287より引用)

(3)スポーツグループへの参加と転倒の関連性

スポーツグループへの参加と、過去1年間の転倒の回数との関連を検討した研究においても、「一人」の群と比較して、「一緒」に実施している群の方が、転倒のオッズ比が0.75と有意に低かったことが報告されています。

(4)スポーツグループへの参加と抑うつの関連性

スポーツグループへの参加と、抑うつをアウトカムとした研究においても、「一緒」に実施している群の方がうつ病を発症するオッズ比は0.53と有意に低い値が示されています。

(図4)運動の実施パターンと2年後の抑うつとの関連(Kanamori Satoru,地域のスポーツグループへの参加と介護予防,理学療法ジャーナルVol.54 No.3 P287より引用)

スポーツグループで実施されている種目ランキング

スポーツグループで行われている種目は何が多いと思いますか?

男女別にランキングが発表されています。

(図5)高齢者がグループに参加して実践するスポーツ種目(上位10種目)と社会心理的な健康指標との関連(Kanamori Satoru,地域のスポーツグループへの参加と介護予防,理学療法ジャーナルVol.54 No.3 P288より引用)

女性の方が“ガチ感”がありますね(笑)

また、非常に現実的な種目を選択する傾向にあります。

では、実際にどの種目が主観的健康感の向上に効果的でしょうか?

男性ではゴルフ、女性ではウォーキングという結果となりました。どちらも人気のスポーツであり、スポーツによる介護予防対策を検討する際には優先順位が高い種目であると言えます。

しかし、いずれの種目でも健康指標とのポジティブな関連が認められています。これは私の主観なので、あまり参考にはなりませんが、お好きな競技に取り組んでいただくことの方が優先度が高い気もします。 (図)

スポーツグループへの参加による介護予防効果へのメカニズム

では、なぜ運動を「一人」で実施するよりも、「一緒」に実施した方が効果が高いのでしょうか?

結論として、“社会的要因”・“身体的要因”・“心理的要因”が深く関連しています。

(1)社会的要因

社会的要因については、下記の効果が挙げられています。

・social network:情報を交換し合える仲間の存在

・social support:困った際に話を聞いてもらうような関係性

左記の効果を向上させるためにはメンバー間の信頼関係を深めることに重点を置くことがポイントです。

また、social capitalが豊かな地域は、その地方自治体で生活するだけで健康への恩恵を受けられることが示唆されています。social capitalとは、「社会や地域における人々の信頼関係」を表す概念です。そのため、スポーツグループ参加率はsocial capitalの1つの指標として捉えられています。

(2)身体的要因

「継続性」と「実施時間」が深く関連しています。

スポーツグループは時間と場所がある程度決められているため、習慣化しやすい点がポイントです。

(3)心理的要因

「自尊心」、「達成感」などが深く関連しています。

これらにより、ストレスや不安を低減させる可能性が述べられています。

スポーツグループへの参加の規定要因

スポーツグループへの参加が介護予防に効果的であることは火を見るよりも明らかです。

では、実際にどのようにして参加者を増やしていくかという課題が出てきます。

スポーツグループへの参加と関連する要因を明らかにした研究があります。

○参加者が少ない

・就業者 ・水産 ・男性 ・低所得者 ・農業 ・林業

○参加者が多い

・家族の支援がある ・近所付き合いが上手 ・趣味がある

この結果より、参加者が多い要因に関しては、“充実度”を向上させることが継続性をアップさせることに繋がります。

参加者が少ない要因に関しては、“参加しやすい環境を作る”ことが重要となります。

どちらも一朝一夕には解決できない問題ですので、“時間”と“コミュニケーション”が何よりも大切になってきます。

また、理学療法士や作業療法士などの専門職もどんどん参画すべきだと思います。

まとめ

スイス人のHeinz Freiさん「健常者はスポーツをした方がよいが、障がい者はスポーツをしなければならない。」という言葉は、非常に的を得ています。

スポーツグループへ参加することで、様々な健康に関する効果が報告されています。

実際に、スポーツグループへ参加されている方々の表情は明るく、身体機能も維持されており、主観的健康感が高いことが伺えます。

私の地元である五島市でも様々な取り組みがされていますが、効果は得られていません。

一方、長与町はスポーツグループの運営をメンバーに任せており、一定の効果をあげています。

また、令和5年6月5日(月)には長与町ふれあいセンターでイベントを企画しています。これは、BooST・長与町・ボランティアの方々が主体となって運営されます。近日中に詳細をアップしますので、興味がある方は、下記のリンクから、情報をチェックしてみてください!

https://webtown.nagayo.jp/list00210.html