【スポーツ講座】夏の水分補給の基本戦略〜水分摂取が勝敗を左右する〜

【スポーツ講座】夏の水分補給の基本戦略〜水分摂取が勝敗を左右する〜

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「夏の水分補給の基本戦略〜水分摂取が勝敗を左右する〜」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「臨床スポーツ医学 2018年月号 暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-」を参考にさせていただきました。

筆者は大阪市立大学 都市健康スポーツセンター 教授 岡崎和信氏です。

リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。

http://www.sports.osaka-cu.ac.jp/panel/78

はじめに

日本の夏は“高温多湿”という気候的な特徴があります。

高温多湿という環境下でスポーツを行うには、水分補給の工夫が勝敗を左右する要因の1つと言っても過言ではありません。

夏は発汗による体温調節機能が亢進するため、脱水のリスクが上昇します。

スポーツ時の正常な生理機能を維持するためには、体液の“組成”と“量“が適切な範囲内でなければ脱水に陥り、パフォーマンスが低下する要因となります。

今回は、以下のトピックスにフォーカスを当てて解説したいと思います。

・水分補給の目的

・脱水がパフォーマンスに与える影響

・就寝前の水分補給

・運動前と運動後の水分摂取

・ジュニアアスリートとシニアアスリートの水分補給

・推奨される水分の“温度”・“組成”・“量”

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水分補給の目的

水分補給の目的は以下の通りです。

・体温の上昇を抑制してパフォーマンスを維持する

・水分と電解質の不足をカバーして脱水を回復・予防する

・糖質の補給 など…

脱水がパフォーマンスに及ぼす影響

脱水とは、体液を喪失し、必要な水分と電解質が不足している状態を指します。

試合や練習で高いパフォーマンスを発揮するには水分と電解質を一定に維持する必要があります。

スポーツ活動により脱水状態に陥ってしまうと、意識障害などの重篤な障害を発症してしまう危険性もあるので注意が必要となります。

では、脱水に陥ると実際に身体でどのような変化が生じているのでしょうか?

体重に対して2%以上の脱水に陥っているとします。その後、脱水率が1%上昇する度に以下の生理学的反応が生じます。

・心拍数:約10拍/分上昇

・深部体温:約0.3℃上昇

循環機能と体温調節機能の破綻はパフォーマンスを低下する主たる要因となります。

そのため、体重に対して2%以上の脱水に陥ると持久系競技のパフォーマンスが著しく低下します。

(Okazaki Kazunobu,暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P678より引用)

脱水によるパフォーマンスの低下の程度には個人差が大きいため、一概にこの図を参考にはできないので注意してください。

(Okazaki Kazunobu,暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P679より引用)

自発性脱水の予防

今回は脱水の回復と予防にフォーカスを当てて解説します。

では、上記の目的をクリアするための飲料とはどんなものでしょうか?

まず、大前提として脱水を回復・防止するためには、塩分の摂取が必要不可欠です。

水だけ摂取していると“自発性脱水”という状態に陥ってしまい、無意識のうちに脱水状態に陥ってしまいます。

そこで、汗の組成に近い生理食塩水を摂取することで自発性脱水が改善され、パフォーマンスの低下を防止することができます。

(Okazaki Kazunobu,暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P680より引用)

今回は水分の吸収を最も効率的に行う方法をご紹介します。

小腸にはNaと糖質を一緒に吸収する輸送体蛋白質が存在しています。

そのため、生理食塩水に約2〜6%の糖質を加えた場合、吸収速度が6〜10倍に促進されます。

また、糖質を摂取することでインスリンの分泌が促進され、尿細管でのNaと水分の再吸収も促進されます。

つまり、スポーツ時は糖質を含む飲料を摂取すべきだと言えます。

しかし、糖質を摂取する際には注意も必要です。

塩分、水分、糖質を同時に補給する場合、糖質の濃度が8%以上になると胃から小腸へ水分を排出する速度が遅くなってしまいます。

つまり、水分が胃に溜まって体内への吸収が遅くなり、胃がもたれる原因となります。

上記のエビデンスを踏まえ、高温多湿の環境では、やはりスポーツドリンクの摂取が推奨されます。

スポーツドリンクには、約0.1〜0.2%の塩分と、約4〜8%の糖質が含まれているので、自発性脱水を予防し、パフォーマンスの維持に繋がります。

スポーツドリンクを2倍〜3倍に希釈してカサ増ししている場面を見かけますが、脱水の回復や予防を目的とするなら、絶対に止めてください。

もし、スポーツドリンクが甘く感じる場合は、塩分を加えましょう。

1Lの水に1gの塩分を加えることで塩分濃度が0.1%上昇するため、塩分濃度がスポーツドリンクや経口補水液と同等となるため、工夫してみましょう。

栄養成分表示から塩分量を算出する式も掲載しますので参考にされてください。

塩分量(mg)=Na(mg)×2.54

近年、経口補水液が一般的になっています。経口補水液は“飲む点滴”とも呼ばれています。

経口補水液は脱水の程度に合わせて使用することが推奨されています。

就寝前の水分補給

運動開始時刻が早い場合は、就寝前に250〜500mlの水分を摂取して脱水を予防しておく工夫が必要となります。

運動前の水分補給

もし、脱水に陥っている可能性を感じたら、運動の4時間前に5〜7ml/kgの水分を摂取してください。

例)体重が50kgの場合

5〜7ml/kg ×50kg=250〜350ml

以下の症状がある場合は8〜12ml/kgの水分を追加して摂取します。

・2時間経過しても尿が出ない

・尿の色が濃い

例)体重が50kgの場合

8〜12ml/kg×50kg=400〜600ml

運動後の水分補給

次の試合までの間隔が短い場合は、脱水量の1.5倍の水分を摂取して運動直後からリカバリーに努める必要があります。

試合や練習の場所に体重計を持っていくことは現実的ではないので、普段から体重を測定して脱水量の平均値を算出しておくことで試合や練習後の水分補給に活用してください。

また、運動後は蛋白質と糖質が含まれる飲料を積極的に摂取することも注目が集まっています。

暑熱順化が十分に行われている場合、循環血漿量が増加します。

結果的に循環機能と体温調節機能が向上し、パフォーマンスが向上することが示されています。

運動後に蛋白質と糖質が含まれる飲料を摂取した場合、5日間の暑熱順化トレーニング後に血漿量が増加したと報告されています。

(Okazaki Kazunobu,暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P682より引用)

専門的な話になりますが、運動によって肝臓で血漿蛋白質であるアルブミンの合成が促進されるためだと考えられています。

ジュニアアスリートの注意点

ジュニアアスリートの場合、定期的な飲水を行うための休息の時間を設けることで、脱水や熱中症を予防して安全にスポーツに取り組めるようになります。

脱水に陥った場合の口渇感は子供も大人も遜色ありません。

小学生の場合は自分で脱水症状を把握して訴えることができない場合も多いため、口渇感を1つの指標とすることが推奨されています。

そのため、トレーニングの最中でも口渇感を感じたら、気軽に水分補給できる環境をオーガナイズすることが重要です。

シニアアスリートの注意点

シニアアスリートでは、口渇感が減弱している場合が多いため、口渇感を指標とするのは不適切です。

運動前からコップ1〜2杯分のスポーツドリンクを20〜30分間隔で摂取して、脱水を考慮した水分補給を配慮することが必要となります。

補給する水分の温度

飲料の温度は1つの重要な要素です。

温かい飲料と比較して、冷たい飲料の方が吸収が速いことが報告されています。

(Okazaki Kazunobu,暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P681より引用)

効率的にリカバリーするためには5〜15℃の温度に設定することが推奨されています。

補給する水分の組成

長時間に及ぶサッカーやマラソン競技では、汗よりも低い塩分濃度の飲料を摂取し続けると、血液中のNa濃度が低下してしまい、以下の症状を引き起こす危険性があります。

・意識障害

・嘔吐

・熱痙攣

・浮腫

軽度の脱水では口渇感を感じません。

そのため、口渇感を感じた時には既に脱水が生じているとアセスメントして、経口補水液やスポーツドリンクを摂取してください。

補給する水分の量

運動前と運動後の体重の変化から脱水量を把握することができます。体重の2%以上の減少は脱水だと判断してください。

脱水を予防するためには1時間で500〜1000mlを補給することが目安です。

しかし、一気飲みは吸収が遅くなるため、200〜250ml/回を2〜4回と、こまめに分けて補給することが推奨されています。

おわりに

今回のポイントを改めてまとめました。

<脱水がパフォーマンスに与える影響>

体重に対して2%以上の脱水に陥っているとします。その後、脱水率が1%上昇する度に以下の生理学的反応が生じます。

・心拍数:約10拍/分上昇

・深部体温:約0.3℃上昇

<就寝前の水分補給>

運動開始時刻が早い場合は就寝前に250〜500mlの水分を摂取しましょう。

<運動前の水分摂取>

運動の4時間前に5〜7ml/kgの水分を摂取することで脱水を改善して試合や練習に入ることができます。

例)体重が50kgの場合

5〜7ml/kg ×50kg=250〜350ml

<運動後の水分摂取>

運動前と運動後の体重の変化から脱水量を把握することができます。

しかし、試合や練習の場所に体重計を持っていくことは現実的ではないので、普段から体重を測定して脱水量の平均値を算出しておくことで試合や練習後の水分補給に活用してください。

脱水量の1.5倍の水分を摂取して運動直後からリカバリーに努めましょう。

<推奨される水分の“温度”・“組成”・“量”>

○温度

温かい飲料と比較して、冷たい飲料の方が吸収が速いことが報告されています。

効率的にリカバリーするためには5〜15℃の温度に設定することが推奨されています。

○組成

軽度の脱水では口渇感を感じないため、口渇感を感じた時には既に脱水が生じていると思ってください。

その場合は、経口補水液やスポーツドリンクを摂取してください。

○量

体重の2%以上の減少は脱水だと判断してください。

脱水を予防するためには1時間で500〜1000mlを補給することが目安です。

一気飲みは吸収が遅くなるため、200〜250ml/回を2〜4回と、こまめに分けて補給することが推奨されています。