【スポーツ講座】アスリートが熱中症に陥る原因は5月と6月の過ごし方に原因がある?

【スポーツ講座】アスリートが熱中症に陥る原因は5月と6月の過ごし方に原因がある?

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「アスリートが熱中症に陥る原因は5月と6月の過ごし方に原因がある?」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「臨床スポーツ医学 2018年月号 暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-」を参考にさせていただきました。

筆者は大阪公立大学 研究推進機構 都市健康・スポーツ研究センター 教授 岡崎和伸氏です。

リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。https://kyoiku-kenkyudb.omu.ac.jp/html/100000373_ja.html

はじめに

エアコンによって気温がコントロールされている部屋で長時間ダラダラ過ごしていると熱中症に陥りやすくなります。

一般的に熱中症による救急搬送は7月から8月の真夏日や猛暑日に集中する傾向にあります。

平成9〜28年の労作時熱中症による死者数は395名となっています。

真夏日や猛暑日で気温が上昇した環境下で作業を開始して1〜3日間に全体の57.7%が発生していることがわかります。

(Okazaki Kazunobu,暑熱順化と運動,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P664より引用)

つまり、気温や実施時間に配慮して余裕を持った計画を立案するなど、工夫を凝らすことで屋外活動時の熱中症の発生を防止することができます。

管理者には安全に活動するための知識を習得することが必要となることも示唆しています。

しかし、身体が暑熱順化できていない5月から7月にも発生する場合もあるため、注意が必要だということを補足しておきます。

暑熱順化による最大酸素摂取量の関係

暑熱順化で持久系競技のパフォーマンスが向上する最大の理由は最大酸素摂取量が向上するからです。

(Okazaki Kazunobu,暑熱順化と運動,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P666より引用)

今回、いくつかの報告がありましたので、ご紹介致します。

<Lorenzoによる研究>

気温13℃と気温40℃の環境で50%の強度で90分/day×10日の自転車競技のトレーニングを行なって平均パワー出力に変化があるか比較した研究がありました。

気温13℃の群は6%の増加、気温40℃の群は8%の増加と、両者の間に有意な変化は認められなかったと報告されています。

<Keiserによる研究>

気温18℃と気温38℃の環境で50%強度の90分/day×10日の自転車競技のトレーニングを3ヶ月の間隔を空けてそれぞれ実施して、平均パワー出力に変化があるか比較した研究がありました。

気温18℃の群は有意差が認められなかったが、気温38℃の群は10.4%増加したことが報告されています。

暑熱順化による循環血液量の関係

一般的に安静時の循環血液量は5〜6L/minとされています。

しかし、運動を行うことで骨格筋に対する酸素消費量が増大するため、相対的に酸素供給量を増大させなければなりません。

つまり、全身に酸素を供給するためには“数”または“量”を増加させる必要があります。

○心拍数

心拍数を約3倍増加させることで心拍出量を約1.5倍増加させることができます。

心臓を拍動させるためにもエネルギーを消費しなければなりません。

そのため、1回拍出量を増加させた方が持久系競技のパフォーマンスが向上します。

○1回拍出量

1〜70日のトレーニングを行うことによって循環血液量は約10%増加します。

つまり、暑熱順化すると循環血液量を約5.5〜6.6L/minまで増加させることができます。

トレーニングをしなければ暑熱順化は得られないのでしょうか?

実は、安静時に暑熱環境に2時間/日×8日間いるだけでも循環血液量は増加します。

しかし、トレーニングを実施した場合は2.4倍の差がつく結果となりました。

また、サウナなどで人工的に暑熱環境を設定した場合は循環血液量の増加は認められないのでしょうか?

トレーニング後に約90℃のサウナに3週間に渡って入ることで心肺機能が向上しないか検証した実験があります。

サウナに入った場合は、サウナに入らなかった場合と比較して、循環血液量は7.1%の増加、赤血球量は3.5%増加しました。

筋疲労を蓄積させずに暑熱順化させたい場合には1つの選択肢になる可能性は否定できません。

暑熱順化による深部体温の関係

中〜高強度の運動では大量のエネルギーを消費するため、大量の熱が産生されて深部体温が上昇します。

細胞には正常に作用するための至適温度があるため、深部体温が上昇すると細胞に機能不全が生じ、持久系競技のパフォーマンスを低下させることが知られています。

つまり、暑熱環境下で持久系競技でパフォーマンスを発揮するためには、“深部体温の上昇を抑制する”ことも重要な戦略となります。

暑熱環境下でのトレーニングによって安静時の深部体温は0.2〜0.6℃低下します。

深部体温の上昇を抑制することで深層と表層の温度差が小さくなるため、産生された熱の移動が減少します。

結果的に非蒸散性熱放散が抑制され、細胞が正常に作用するため、持久系競技のパフォーマンスを維持することができます。

暑熱順化による発汗機能の関係

真夏日や猛暑日には、深部体温が上昇します。

体温を低下させるために発汗量が増加します。成人男性では2L/時以上になると報告されています。

つまり、暑熱環境下で持久系競技でパフォーマンスを発揮するためには、“蒸散生熱放散を増加させる”ことも重要な戦略となります。

気温35℃・湿度16%の環境でトレーニングを14日間行うことによって蒸散生熱放散は18%増加し、非蒸散生熱放散は6%減少することが報告されています。

つまり、暑熱環境下でトレーニングすることによって蒸散生熱放散である発汗機能が向上することで、持久系競技のパフォーマンスが向上することが報告されています。

再順化

トレーニングによって獲得した能力は再獲得するまでに一定の時間を要することが報告されています。

今回、いくつかの報告がありましたので、ご紹介致します。

<気温46℃の環境で100分/day×10日の持久性トレーニングを実施した場合>

トレーニングを中止して涼環境で過ごす期間が12日以内であれば、2日間のトレーニングで再順化できます。

トレーニングを中止して涼環境で過ごす期間が26日以内であれば、4日間のトレーニングで再順化できます。

つまり、涼環境で過ごす期間が短いほど、暑熱順化を再獲得するために要する時間も短くなることが示唆されています。

<気温49℃の環境で110分/day×9日間のトレーニングを実施した場合>

トレーニングを中止後18日以内であれば、2日間のトレーニングで再順化できます。

脱順化

トレーニングによって獲得した能力はトレーニングを中止することで徐々に消失します。

今回、いくつかの報告がありましたので、ご紹介致します。

<気温39.5℃の環境で90分間/day×5日のトレーニングを行って中止した場合>

○心拍数

4日間で獲得した場合、3週間で約100%が消失します。

9日間で獲得した場合、3週間で約30%の消失となります。

つまり、時間をかけて獲得した方がトレーニング中止後の作用が持続することが示唆されています。

○深部体温

トレーニングを中止して2週間後には効果が消失します。

<気温40℃の環境で90分間/day×14日の自転車トレーニングを行って中止した場合>

○深部体温

トレーニングを中止して1週間後に32%、2週間後に55%増加します。

○発汗機能

トレーニングを中止して1週間後に31%、3週間後に33%が消失します。

まとめ

トレーニングによる暑熱順化の獲得には、運動量、環境温、トレーニングの強度などに影響されます。

トレーニングを継続して実施することで効果は持続しますが、トレーニングを中止することで効果は徐々に消失する点に注意が必要です。

暑熱順化を獲得するためには、暑熱環境下で1日の総運動時間が1時間以上となるような持久性トレーニングを実施することが推奨されます。

1週間で以下の生理学的反応が得られ、持久系競技のパフォーマンスを向上させることが可能です。

・最大酸素摂取量の増加

・循環血液量の増加

・心拍数の低下

・深部体温の低下

・発汗機能の亢進

アスリートの場合、約2週間で上記のの反応はプラトーに達します。

一度、暑熱順化を獲得することで、3日に1度の頻度でトレーニングすることにより、暑熱順化を維持できると考えられています。

近年は5月から気温が高くなる傾向にあります。

つまり、この時期から暑熱順化を意識したトレーニングに取り組んでいないと夏に失敗する原因となります。

今回の記事が持久系競技のアスリートの元に届くことを祈っています。