【スポーツ講座】東京の気象条件と熱中症の発症の関係〜都会では熱中症が発症しやすい!〜

【スポーツ講座】東京の気象条件と熱中症の発症の関係〜都会では熱中症が発症しやすい!〜

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「気象条件と熱中症の発症の関係〜都会では熱中症が発症しやすいは本当だった!〜」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「臨床スポーツ医学 2018年月号 暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-」を参考にさせていただきました。

筆者は一般財団法人 気象業務支援センター 振興部 登内道彦氏です。

気象予報士の方も論文を寄稿していることに驚きました。

はじめに

2021年7月23日〜8月8日に東京オリンピック、2021年8月24日〜9月5日に東京パラリンピックが開催されました。

東京オリンピックが開催される期間は“梅雨明け10日”に丸被りでした。

“梅雨明け10日“とは、太平洋高気圧の勢力が持続しやすく、安定した晴天が約10日間続く状態です。

熱中症の発症が集中しやすい期間なので、特に注意が非強です。

今回は、東京の気象条件を参考にして気象条件と熱中症の発症の関係について解説していきたいと思います。

7月〜8月の東京の気象条件

日本の6月〜8月の平均気温は、100年で約1.5℃上昇しています。

都市部では、地方と比較して気温が上昇するヒートアイランド現象(heat island phenomenon)の影響を受けるため、東京では同期間で約3℃上昇しています。

 

東京の月別平均気温を比較した統計があります。

1991〜2000年の7月と8月は、2010〜2017年の同期間と比較して0.7℃も上昇しています。

今後も地球温暖化により、気温の上昇に歯止めが効かない状況に陥ると予想されています。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P749より引用)

 

東京の熱帯夜(最高気温が25℃以上の日)、真夏日(最高気温が30℃以上の日)、猛暑日(最高気温が35℃以上の日)の1年ごとの日数を報告した統計を発見しました。

その年によって変動はありますが、熱帯夜は2.6日増加、真夏日は5.0日増加しています。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P749より引用)

 

また、その年の熱帯夜、真夏日、猛暑日の初日を報告した統計も発見しました。

熱帯夜では10年間で4.7日、真夏日では10年間で7.1日も早くなっています。

東京では、熱帯夜は7月中旬、真夏日は6月上旬から発生しているため、暑熱順化を行う時間帯や時期に配慮する必要があります。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P750より引用)

東京の気象条件と熱中症

湿球黒球温度(wet bulb globe temperature:WBGT)をご存知でしょうか?

WBGTは熱中症の発生に起因する気象因子を全て含んだ指標であり、熱中症の搬送者数と高い相関があることが認められています。

消防庁の熱中症搬送者速報では、東京都における7〜8月の熱中症搬送者数は以下の通りです。

熱中症搬送者数
2015年1945人
2016年1884人
2017年1857人

日本体育協会の“熱中症予防運動指針”においてもWBGTの活用が推奨されています。

WBGTは乾球温度(Ta)、黒球温度(Tg)、湿球温度(Tw)を用いて以下の式で算出することができます。

○日射がある場合

WBGT=0.7×Tw+0.2×tg+0.1×Ta

○日射がない場合

WBGT=0.7×Tw+0.3×Tg

Excelで予め計算式を設定しておくと即座に算出することができるので便利です。

 

WBGTに比例して熱中症搬送者数は増加する傾向にあります。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P750より引用)

日本体育協会によると、28℃を1倍とした場合、31℃では3.18倍となることが報告されています。

気温が3°上昇するだけで、熱中症の発症率が約3倍になることは驚きました。

 

また、地方の選手が東京などの都会で試合をするには注意が必要です。

都道府県別の熱中症搬送者数は、WBGTが28℃の場合、北海道は東京と比較して5.26倍になると報告されています。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P751より引用)

私の経験では、WBGTを参考に練習の強度や時間を調整している指導者と出会ったことがありません。

我々の普及活動が十分でないことが問題だと感じていますが、指導者の方々も知識をアップデートして責任感を持たなければなりません。

イベント会場における暑熱環境

環境省の“夏季のイベントにおける熱中症対策ガイドライン”では、真夏日や猛暑日にイベントや大会を開催する主催者が熱中症の発症を予防するための注意点をまとめたガイドラインです。

特に重要なポイントを列挙しました。

・風通しがいい場所を休憩スポットに設定する。

・直射日光に曝される時間を少なくする。

・テントなどを設置して直射日光の遮蔽に配慮する。

・日陰はWBGTが約3℃低下する。

・人が密集する場所では気温が上昇する。 など…

 

名古屋市の“にっぽんど真ん中祭り”の工夫をご紹介します。

フードコートに簡易型の遮光シートが設置されています。

(Tonouchi Michihiko,東京における夏の環境条件と熱中症の発生,臨床スポーツ医学Vol.35 No.7 P752より引用)

このように風通しを確保し、直射日光を遮ることで、WBGTが約1〜2℃も低下します。

スポーツのイベントを開催する際にも参考にしていただきたいと思います。