【医療・介護講座】心不全とサルコペニアの落とし穴〜筋持久力も評価しないと不十分です〜

【医療・介護講座】心不全とサルコペニアの落とし穴〜筋持久力も評価しないと不十分です〜

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「心不全とサルコペニアの落とし穴〜筋持久力も評価しないと不十分です〜」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「理学療法ジャーナル 2022年6月 医療現場におけるサルコペニア・フレイル」を参考にさせていただきました。

筆者は札幌医科大学附属病院 理学療法士 片野唆敏氏です。

リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。

https://researchmap.jp/19820528

はじめに

日本人の死因ランキングをご存知でしょうか?

看護師や理学療法士の国家試験では頻出されてる医療従事者にとっては一般常識の問題です。

令和2年の日本人の死因の第2位に心疾患が位置しています。

令和2年の心不全の患者数は約120万人と推定されており、国民的な病気となっています。

高齢者の心不全は運動器や呼吸器などの疾患が合併することにより、多様で複雑な臨床像を呈することが特徴です。

また、要支援や要介護の認定を受ける割合が高く、医療費や介護保険料が増加する原因となります。

その中でもサルコペニアを合併していると、急速に要支援や要介護へと進行してしまいます。

今回は運動器や循環器のプロフェッショナルである理学療法士がサルコペニアと心不全の有病率、病態、有害健康転帰(adverse health outcomes)への影響、治療にフォーカスを当てて解説します。

サルコペニアと心不全の有病率

Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によるサルコペニアの有病率は約10%だとされています。

しかし、心不全で入院された高齢者を対象とした多施設の観察研究であるFRAGILE-HFの報告では、AWGSによるサルコペニアの有病率は19.9%だったと報告されています。

また、類似している複数の研究の結果を統合し、ある要因が特定の疾患と関連性があるか解析するmeta-analysisでは、心不全の方のサルコペニアの有病率は35%でだったと報告されています。

外来の方は26%ですが、入院の方は55%と有意に高いことには注目が集まります。

筋力低下と骨格筋量減少は有害健康転帰(adverse health outcomes)の発生に大きな影響を及ぼすことが報告されています。

有害健康転帰とは、転倒、入院、要介護への移行、死亡など、健康に有害となるイベントの発生を指します。

そのため、心不全の予後予測における筋力と骨格筋量は臨床的にも非常に重要性となります。

特に、心不全の骨格筋量低下は、運動耐容能と換気効率の低下に関連しており、予後が悪化するリスク因子であることが報告されています。

心不全のサルコペニアでは、骨格筋量の増加が治療の根幹となることが示唆されています。

サルコペニアと心不全の評価

サルコペニアの評価の手順について復習しましょう!

2010年にThe European Working Group for Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によりサルコペニアの診断基準が提唱されました。

2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア版のサルコペニアの診断基準が

提唱されました。

AWGSのサルコペニア判定基準では、握力に問題が認められない場合でも、歩行速度の低下が認められると、骨格筋量の計測に進む手順となっています。

サルコペニアの判定に最も重要だと言っても過言でない骨格筋量の測定は「全身の骨格筋量を算出する」という原則があります。

そのため、生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)や二重エネルギーX線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry:DXA)により全身の骨格筋量を算出する必要があります。

しかし、BIAは装置によっては約1割の誤差が生じる場合があるため、測定条件を統一しておく必要があり、退院や店員の際は注意が必要です。

身長が160cmの人と身長が180cmの人を比較した場合、後者の方が必要な骨格筋量は多くなります。

つまり、動作の遂行に必要な骨格筋量は身長や体重などの個人差が大きいことを表しているため、測定条件は統一もしくは補正をする必要があります。

骨格筋指数(Skeletal Muscle Mass Index:SMI)がスクリーニング検査に有効だと報告されています。

SMIは以下の式によって算出できるので、計算してみてください。

SMI=骨格筋量(kg)/身長2

サルコペニアと心不全の病態

なぜ心不全の方はサルコペニアの進行速度が早いのでしょうか?

結論から申し上げると、心不全の病態に起因する骨格筋の代謝異常が原因だと考えられています。

心不全では、骨格筋に以下の病理学的変化が生じます。

・筋細胞のアポトーシスが引き起こされる

・筋線維の形質が転換される

・骨格筋内の結合組織や脂肪組織が増加する

・白筋線維の脱神経が生じる

・ミトコンドリアの機能不全が生じる など…

また、以下の原因により骨格筋内のエネルギーのバランスが負に傾き、全身的に蛋白質の異化が優位となることで、骨格筋量が減少すると言われています。

・アドレナリンやノルアドレナリンにより筋蛋白質の異化が亢進する

・活性酸素の産生が亢進することで骨格筋が傷害される

・慢性的な炎症によりサイトカインが産生されることで筋が傷害される など…

心不全では、骨格筋の代謝に異常が生じるため、筋持久力が低下することが考えられます。

つまり、筋力と骨格筋量に問題がない場合でも、長距離の歩行も評価することが鍵となります。

そのため、6分間歩行テストなど、筋持久力も評価することが重要となります。

進行速度や重症度は栄養状態、活動量、年齢など、複数の因子に影響を受けると考えられているので、非常に個別性が高いと言えます。

心不全の治療〜栄養療法〜

心不全では骨格筋内のエネルギーが負に傾くことで重症化し、運動療法の効果を減弱し、死亡の危険性を高めることが示されています。

(Katano Satoshi,Nagaoka Ryohei,Naganuma Ryo,医療現場におけるサルコペニア・フレイル,理学療法ジャーナルVol.56 No.6 P654より引用)

エネルギー摂取量が25〜40kcal/kg/dayでは、死亡する危険性が低下することが報告されています。

そのため、エネルギー摂取量を是正することが最重要だと考えられています。

また、栄養補助食品を摂取することで、以下の項目が改善されることが示されています。

・QOL ・運動耐容能 ・炎症 ・除脂肪重量 ・体脂肪量

高齢者のサルコペニアの改善を目標とする場合には、1.2g/kg/day以上が必要とされています。

しかし、高齢者は食が細いことも少なくありません。

そのような方には以下の工夫が必要です。

・栄養補助食品で補う

・間食を積極的に摂取する

・管理栄養士によるサポートを受ける など…

個別性を重視して対応することが予後の改善に繋がる可能性があります。

BooSTでは、管理栄養士監修の宅食サービスも開始する予定です。

お楽しみにお待ちください。

心不全の治療〜運動療法〜

運動療法は蛋白質の同化を促進し、蛋白質の異化を抑制するため、治療の重要な項目となっています。

運動療法はresistance exerciseと有酸素運動に大別されます。

○resistance exercise

筋肉に負荷をかけて、繰り返し行う運動を指します。

筋蛋白質の同化が促進されるので、骨格筋量の増加には非常に有効です。

○有酸素運動

長時間継続して行う運動を指します。

有酸素運動は蛋白質の同化を促進する作用は認められていません。

しかし、蛋白質の異化を防止する機序は証明されているため、サルコペニアの治療に有効である可能性があります。

重要なことは、両者を組み合わせたプログラムを実施することです。

まずは、どちらか一方から開始して、運動習慣を確立させるステップから始めてみてください。

おわりに

今回は運動器や循環器のプロフェッショナルである理学療法士がサルコペニアと心不全の有病率、病態、有害健康転帰(adverse health outcomes)への影響、治療にフォーカスを当てて解説しました。

サルコペニアと心不全は関連が強く、治療は運動療法と栄養療法が中心です。

今回は触れませんでしたが、薬物療法も非常に重要です。飲み忘れには注意しましょう。

しかし、普段からサルコペニアが重症化しないように予防する意識を持って運動を事項し、食事を改善することが最も大切です。

BooSTは合同会社MYSと連携して訪問リハビリテーションを提供しています。

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