こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「運動イメージとリハビリテーション」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「理学療法ジャーナル 2022年9月号 運動イメージ」を参考にさせていただきました。
筆者は大分大学 福祉健康科学部 福祉健康科学科 理学療法コース 准教授 菅田陽怜氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
はじめに
“イメージトレーニング”は本当に効果的なのか疑問に思ったことはありませんか?
答えは“YES”です。
今回は、イメージトレーニングの具体的な方法と、イメージトレーニングがいかに汎用性が高いものかをご説明します。
運動イメージとは?
運動イメージは「身体の運動を伴わない運動の心的表現」と明確に定義されています。
つまり、具体的な動作をイメージして、頭の中でリハサールを行うという、非常に抽象的な概念であることが説明されてます。
今回は「運動イメージとリハビリテーション」というタイトルなので、運動イメージに焦点を絞ってお話したいと思います。
運動イメージを行う際の方法として、「一人称的イメージ」または「三人称的イメージ」が汎用されています。
一人称的イメージ
「一人称的イメージ」とは、主観的に運動イメージを行うものです。
自分が実際にプレーしている場面をイメージするものです。
関節や筋肉を動かすような感覚的情報を伴うことから「筋感覚性運動イメージ(kinesthetic motor imagery)」と呼ばれています。
三人称的イメージ
三人称的イメージとは、客観的に運動イメージを行うものです。
観客席から他者がプレーしている場面をイメージするものです。
視覚的情報を伴うことから、「視覚性運動イメージ(visual motor imagery)」と呼ばれている。
一人称的イメージと三人称的イメージの違い
一人称的イメージは三人称的イメージと比較すると、運動のイメージを具現化しやすい点から、大脳皮質の運動関連領域が賦活されやすいことが知られています。
そのため、三人称的イメージで理想とする動作をイメージして、それを一人称的イメージに落とし込んでリハビリテーションに取り組むという方法が実用的です。
運動イメージの質を規定する因子
では、運動イメージの質を規定する因子は何でしょうか?
(1)運動イメージの内容
運動イメージのに内容ついては、運動イメージの難易度に比例して心理的負荷が増加し、運動イメージの精度が低下することが報告されています。つまり、単純な動作よりも、複雑な動作の方がイメージに要する時間や、実際に動作を獲得するための時間が長くなります。
また、その運動を行なった経験にも依存します。つまり、既に学習や経験している運動をイメージする際は、運動イメージに要する時間と、実際に運動を行う時間も短くなることが報告されています。
(2)イメージトレーニングの頻度
運動イメージのトレーニングを行うためには時間、頻度や方法などを厳密に設定することが重要となります。
運動イメージのトレーニングを行う“時間”は、約15〜20分/回が最も効果的であると報告されています。一方で、運動イメージに伴う集中力や心理的疲労などにも考慮する必要があります。Rozandらは、10回の運動イメージを実施した後に、実際に運動を行うサイクルを繰り返すことで心理的疲労を軽減できることを報告しています。
運動イメージのトレーニングを行う“頻度”は週3回が最も高い効果が得られ、この頻度を週5回に増加させても、追加効果は得られなかったことが報告されています。
トレーニングの効果は、開始後の1週目に最も顕著に効果が得られ、2週以降は徐々に減少していくことがしていくことが示されています。
研究ベースの断片的な設定にはなりますが、上記結果を踏まえると、約15〜20分/回の運動イメージのトレーニングを週3回程度行うことが最も効果的であると考えられます。
運動イメージと理学療法
運動イメージがいかに汎用性が高いものであるかを実際の疾患に関連させて説明します。
(1)高齢者の運動機能の低下
加齢による身体機能の低下に対して、運動イメージが有用であるという報告は多く存在します。
65歳以上を対象としたランダム化比較試験では、運動イメージとリハビリテーションを併用することで、転倒に関する自己効力感、バランス機能、歩行機能が有意に改善したことが報告されています。
また、systematic reviewにおいても、運動イメージのトレーニングにより、バランス機能が有意に向上することが報告されています。
しかし、変形性膝関節症などの運動器疾患により、不適切な動作が生じている場合があります。近隣の医療機関を受診して、理学療法士からアドバイスされたことを運動イメージに反映させて、トレーニングに励むことが確実な方法だと思います。
(2)整形外科疾患
運動イメージトレーニングは整形外科疾患の術後の方にも応用されています。
Briones Canteroらは人工膝関節全置換術を実施された急性期の患者の方に対して、運動イメージと理学療法を併用することで、疼痛が有意に低下したことを報告しています。
また、Ferrer Penaらによる人工膝関節全置換術の患者を対象としたsystematic reviewでは、理学療法の際に運動イメージを行うことで、大腿四頭筋の筋力増強と、疼痛の軽減が得られることが報告されています。
一方、Pastora Bernalらによるsystematic review及びメタ分析では、前十字靭帯損傷の症例に関しては、運動イメージと理学療法を併用することが効果的であるという明確なエビデンスはないと報告しています。しかし、彼らがメタ分析を行う際に選択した数々の論文において、損傷への恐怖心、疼痛、不安に対する運動イメージを行なっている内容が含まれている論文が少ないことがメタ分析の結果に影響した可能性があると説明しています。つまり、今回の目的から外れた研究なので、信頼性は低いということです。
手術後は疼痛により、ネガティブな気持ちに陥ってしまうため、心理的な余裕がありません。これがどこまで通用するかは、その方のパーソナリティなどにも依存するため、全ての方に効果的なものではないということを付け加えます。
(3)脳血管障害
脳血管障害の運動機能の回復を図るためには、20分/単位という制約された時間の中でいかに質の高い理学療法を提供するかが需要となります。
しかし、理学療法は評価にも時間を要する必要があるので、20分/単位という制約された時間をフルに治療に当てることはできません。
そこで、その質の高い理学療法を提供するための1つの方法として、運動イメージが有用であると言われています。具体的な方法としては、運動イメージをしている最中に理学療法士がその運動を他動的にサポートすることで固有感覚や表在感覚を入力する方法が挙げられます。
運動イメージと理学療法を併用することによって、上肢機能、バランス機能、歩行機能が改善することが報告されています。
同様に、Monteiroらによるsystematic reviewにおいても、運動イメージと理学療法を併用することで、片麻痺の方の歩行スピードが有意に改善することが報告されています。歩行スピードは在宅復帰の大きな指標となるので非常に重要なものです。
しかし、脳血管障害に関しては、本人の意識状態や認知機能に依存するため、全ての方に適応かと言われたら、そうではないのが現状です。
左記に例示した疾患以外にも、神経難病やスポーツなどで運動イメージのトレーニング効果が確認されています。
運動イメージの将来展望
左記の通り、運動イメージのトレーニングは、実際の運動に類似した脳活動が生じることが知られています。
運動イメージにと理学療法を併用することで得られる効果について疾患を交えて概説させていただきました。近年、運動イメージと理学療法の併用により、理学療法の効果がより向上するといった報告が増加しています。将来的に臨床応用が更に加速することが期待されます。動向を見守りましょう。