こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「理学療法士の地域における予防活動の効果と実態」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「理学療法ジャーナル 2020年3月号 地域における予防の効果」を参考にさせていただきました。
筆者は関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 野村卓生氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp
はじめに
前回は“重症課予防”についてお話をさせていただきました。
今回は第三弾として“健康増進(health promotion) “についてお話をしたいと思います。
平均寿命と健康寿命
“健康増進”と聞いて何をイメージしますか?
私は真っ先に平均寿命と健康寿命を思い浮かべます。
○平均寿命
「0歳における平均余命」です。
つまり、出生して死亡するまでの平均を指しています。
そのため、病気によって介護などを必要とする機関も寿命に反映されている点がポイントです。
○健康寿命
「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」です。
つまり、病気によって介護などを必要とする期間は寿命に反映されていない点がポイントです。
○平均寿命と健康寿命の差
令和元年の全国の平均寿命、健康寿命、平均寿命と健康寿命の差を表にしました。
平均寿命(歳) | 健康寿命(歳) | 差(歳) | |
男性 | 81.41 | 72.68 | 8.73 |
女性 | 87.45 | 75.38 | 12.06 |
平均寿命と健康寿命の大きな違いは何でしょうか?
それは、「自立して生活できるか?」だと思います。
皆さんの大切なものは何でしょうか?
お金? お酒? 趣味? 大切な人と過ごす時間? 旅行?
いずれにしても不健康だと実現できないものばかりです。そのため、大切なものを手放したくなければ、健康増進に努め、健康寿命の延伸に努めなければなりません。
行政は“お金”の補償はしてくれます。しかし、“時間”の補償はしてくれません。今からでも遅くないので、健康増進への意識をアップデートさせましょう!
尚、今回の資料は厚生労働省から引用させていただいております。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf
健康増進の変遷
1964年に世界保健機関(World Health Organization:WHO)が提唱した「健康とは単に病気でない、虚弱でないというのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」という健康の定義が有名です。
1960年代は、主に感染予防を意味するものでした。
1970年代は、健康という理想的な状態を更に増進していくものとして捉え直されました。
1980年代は、個人の生活習慣の改善に加え、環境の改善も概念に含まれるようになりました。
左記のように時代によって健康増進の意味する内容は変遷しています。
今後のWHOの動向にも注目ですね!
健康増進法
では、日本での“健康”の捉え方はどうなっているでしょうか?
日本では2002年に健康増進法が制定されました。第二条には「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない」と定められており、健康増進を国民の義務としています。
また、医療機関や地方自治体などに協力義務がある点も特徴の1つです。
国民の健康増進の総合的な推進を図るための具体例を以下に記載します。
①国民健康・栄養調査
これは厚生労働省が毎年実施している調査です。
国民の栄様や生活習慣を調査し、健康増進を推進するための基礎資料を作成するために実施されています。
②保健指導
対象者自身が生活習慣をセルフマネジメントできるように行動変容を促すように線することです。
私も病院で保健指導を行ってきましたが、行動変容ができる方々は非常に少ない印象でした。また、入院中は行動変容ができても、退院後は元の生活に戻ってしまうパターンも多かったです。
③特定給食施設の接地
この論文を読んで勉強をさせていただきました。知らなかったことが恥ずかしいです…
多数の特定者に継続的に100食/回以上or250食/dayの食事を提供する施設という基準があります。
単に食事を提供するだけではなく、食習慣を改善し、健康増進を図るという点がポイントです。
④受動喫煙防止
2020年に「改正健康増進法」が施行され、レストランなどの飲食店内での禁煙が禁止されましたよね。
2021年にはパチンコ店も対象となり、社会問題となりましたよね。
よく「高額納税者」という言葉を発している方々がいらっしゃると思いますが、周囲はダサいと思っています(笑)
⑤特別用途表示
こちらも初めて目にしました。
もしかしたら妊婦の方々は目にしたことがあるマークではないでしょうか。
乳児の発育や、妊婦などの健康健康の保持や回復などに適する特別な用途について表示を行う食品です。これは消費者庁の許可が必要なので、勝手に記載したら法律違反となるので注意が必要です。
勤労者が健康増進に取り組む意味
今回、健康増進の対象者を勤労者に絞って概説します。勤労者の健康増進に関する法制度として、「労働安全衛生法」や「労働基準法」などがあります。
一億総活躍社会の実現には、障害者を含む全ての国民の活躍が必要です。特に、高齢化に歯止めが効かない日本においては高齢者の労働力の確保が重要となります。
アベノミクス成長戦略において企業における「健康経営」の取り組みを促進しています。なぜなら、企業が従業員の健康に配慮することによって売上にも大きな成果をもたらすという効果が実証されているからです。
Googleは「怒り」をコントロールするテクニックを社員に研修したことで業務効率が上がったというエピソードがあります。これは、「精神の健康増進」に繋がる素晴らしい取り組みだと思います。
事例紹介
株式会社ノーリツでは、「健康経営」の考え方に基づき、社員の健康と人生設計に着目した活動を実施しているようです。事業の一部を関西労災病院治療就労・両立支援センターに委託しています。その中での理学療法士の取り組みをご紹介させていただきます。
①グループ支援
各地域の活動に理学療法士が参加し、地域の特性に応じた相談や指導を行なっています。
実情はボランティアのようです。一般的にボランティアはポジティブなイメージだと思います。しかし、報酬が発生しないものに時間を割くのはバカバカしいと思うのは当たり前です。需要と供給のバランスが崩壊し、健康格差が拡大するのは時間の問題だと思います。1人1人が健康に対して投資するという意識を持ち、報酬が発生するという意識にアップデートできなければ、日本の健康増進問題は解決できないと思っています。
②健康の風土づくり
日本の企業は健康に対する福利厚生が充実していません。
そこで、理学療法士がグループで短時間で実施できる運動プログラムを開発し、各部門のリーダーに就業前や休憩時間中に実施してもらうように説明する取り組みがされています。リーダーは実施可能な時間帯を検討して運動プログラムを実施しているようです。
健康経営を目指す社内の風土が形成されるには時間がかかりますが、その一歩を踏み出したことは大きな変化だと思います。
③個別指導
健康診断及び体組成分析の評価結果に基づいた指導を実施しています。
“健康運動指導士”や“柔道整復師”などは血液データCTやMRIなどの画像データの解析はできません。その点でも、理学療法士は上位の資格だと言えます。
④集団指導
健康のベースである運動、食事、睡眠などの生活習慣についてセミナー形式で指導を実施しています。
私もしばしばショートセミナーを実施させていただいておりますが、参加された方々はセミナーの中での新たな発見があるみたいです。医療従事者の方々にとっての“常識”は、一般の方には“非常識”だということも多くあるので、根気強く関わることが大切だと思います。
⑤労働環境改善
部門ごとに作業環境や作業姿勢を評価し、問題点を抽出して改善策を提案しています。
作業姿勢の負担度の調査法にはOvako Working Posture Annalysing System(OWAS)などがありますが、今回はは作業環境・作業姿勢に関する評価の詳細は割愛させていただきます。
ただ、理学療法士が介入した効果指標には少し触れさせていただきます。主な指標として、以下のものが挙げられます。
・メンタルヘルスの改善
・労働産生性の向上
・労働事故件数の減少
本当に健康に対する福利厚生を充実するだけで社員の効率が飛躍的にアップします。
アメリカでは産業理学療法が盛んに行われており、日本は世界に遅れをとっていると思います。しかし、その分、伸び代があるということだと思いますので、今後に期待ですね!
おわりに
理学療法士が主体性を持って予防活動に取り組むことは法律的に困難です。
また、理学療法士による介入効果を検証することもうまくいかないケースが多いことも現実です。
しかし、能動的な活動の先に日本の未来を変えられ“何か”が待っていると思っています。
BooSTは合同会社MYS様と業務提携を結び、AIを活用して医療従事者の不足しているという問題を解決するために動き出しました。
一緒に五島市の未来を変えるための活動をしてくれる仲間を募集していますので、離島の医療・福祉にご興味がある方はご連絡ください。