こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「理学療法士の地域における予防活動の効果と実態」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「理学療法ジャーナル 2020年3月号 地域における予防の効果」を参考にさせていただきました。
筆者は関西福祉科学大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 野村卓生氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://www.fuksi-kagk-u.ac.jp
はじめに
前回は“介護予防”についてお話をさせていただきました。
今回は第二弾として“重症化予防“についてお話をしたいと思います。
生活習慣病の統計
まずは生活習慣病に関連するデータを「国民健康・栄養調査」から引用してご紹介したいと思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
○運動習慣
運動習慣がある割合は男性が33.4%、女性が25.1%となっています。
過去10年間で比較すると男性は有意な増加が認められませんが、女性は有意な減少が認められるという結果になっています。
○飲酒
生活習慣病を発症する可能性が高いレベルの飲酒をされている方の割合は男性が14.9%、女性が9.1%となっています。
過去10年間で比較すると男性は有意な増加が認められませんが、女性は有意な増加が認められるという結果になっています。
○喫煙
喫煙の割合は男性が27.1%、女性が7.6%となっています。
過去10年間で比較すると男性も女性も有意な減少が認められるという結果になっています。
○最高血圧(収縮期血圧)
最高血圧の平均値は男性が132.0mmHg、女性が126.5mmHgとなっています。
過去10年間で比較すると男性も女性も有意な増加が認められるという結果になっています。
○総コレステロール値
血清の総コレステロール値が240mg/dl以上の割合は男性が12.9%、女性が22.4%となっています。
過去10年間で比較すると男性は有意な増加が認められませんが、女性は有意な増加が認められるという結果になっています。
○糖尿病
糖尿病の割合は男性が19.7%、女性が10.8%となっています。
過去10年間で比較すると男性も女性も有意な増加は認められないという結果になっています。
○肥満
肥満の割合が男性が33,0%、女性が22.3%となっています。
過去10年間で比較すると男性は有意な増加が認められますが、女性は有意な増加は認められないという結果になっています。
○各項目の一覧
項目 | 男性 | 女性 |
運動習慣 | 33.4%(-) | 25.1%(↓) |
飲酒 | 14.9%(-) | 9.1%(↑) |
喫煙 | 27.1%(↓) | 7.6%(↓) |
最高血圧 | 132.0mmHg(↑) | 126.5mmHg(↑) |
総コレステロール | 12.9%(-) | 22.4%(↑) |
糖尿病 | 19.7%(-) | 10.8%(-) |
肥満 | 33,0%(↑) | 22.3%(-) |
※()内は過去10年間と比較した際の増減
つまり、このデータからは「生活習慣を改善しないと病気を発症しますよ!」ということが読み取れます。
経済と糖尿病
医療費が財政を圧迫しているという話題はよく耳にすると思います。
今回は日本で実際に支払われている医療費をイメージしていただくために“人工透析”をテーマに解説していきたいと思います。
今回は厚生労働省のデータを引用させていただきます。
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000598603.pdf
糖尿病の慢性合併症に“糖尿病性腎症”があります。
糖尿病性腎症が進行して腎不全に陥ると人工透析が必要となります。
2018年時点で人工透析が必要な方は約3万8000人でした。その中で約1万6000人は糖尿病性腎症が原因です。割合に直すと42.3%となります。
医療費に換算すると年間で総額1.57兆円となります。
人工透析が必要になると、以下の問題が発生します。
・家計が圧迫される
・家族の負担になる
・時間がかかる
・仕事に支障が出て転職を余儀なくされる
・糖尿病性神経障害や糖尿病性網膜症も合併する可能性があって日常生活に支障が出る
・糖尿病性足病変も合併する可能性があるため切断のリスクが付き纏う
病気になるとあなただけの問題ではなくなります。大切な家族を守るためにも健康に対する投資を積極的に行う必要があります。
これは切羽詰まって悩んでいる方々を見てきた私だからお伝えできることだと思います。
糖尿病性腎症重症化予防プログラム
このような現状を踏まえ、厚生労働省・日本医師会・日本糖尿病対策推進会議が2016年3月に「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」を策定しました。
対象者:・医療機関の未受診者
・医療機関の受診中断者
方法:・医療機関からの適切な受診勧奨
・進行予防のための治療
・保健指導
私も糖尿病のリハビリテーションに携わっていましたが、この方法ではコストパフォーマンスが悪いです。
そもそも、これでは「あなたは障害者なので病院を受診して治療を受けなさい」と命令されている気分になります。
様々な専門職がチームワークを発揮して“本気”で問題を解決するために取り組むための分岐点にいると思います。
事例紹介
厚生労働省が糖尿病性腎症の重症化予防の先進的事例を紹介していますが、理学療法士が関与しているケースは少ないのが現状です。
今回は数少ない事例の中からご紹介します。
豊岡市では、豊岡市糖尿病対策推進会議が“豊岡市糖尿病・糖尿病性腎症重症化予防事業”を推進しています。
具体的な流れは以下の通りです。
(1)豊岡市の国民健康保険の被保険者の特定健康診断データなどから、重症化予防が必要となる対象者をピックアップする。
(2)受診勧告を行う。
(3)対象者は豊岡市内のクリニックを受診する。
(4)運動指導が適応と判断された場合は豊岡病院に紹介される。
(5)豊岡病院の糖尿病専門医が運動療法が適応や合併症のリスク評価する。
(6-a-1)合併症のリスクが低いと判断された対象者は豊岡市が提携を結んでいるしている健康増進施設に紹介される。
(6-a-2)理学療法士が身体機能を評価する。
(6-a-3)糖尿病診療ガイドラインに基づいて運動療法を開始する。
(6-b-1)合併症のリスクが高いと判断された対象者は豊岡病院の高度な資格を持っている理学療法士に運動指導の処方が出る。
(6-b-2)運動の負荷量を設定して運動療法を開始する。
このように理学療法士が豊岡市糖尿病対策推進会議の一員として参画するケースは稀です。
このように医療機関・行政・民間施設が協力して運動指導や栄養指導に取り組むシステムの構築が促進されるべきだと思います。
課題
地域での糖尿病の重症化予防において何を効果判定の指標としたらいいでしょうか?
医師、看護師、臨床検査技師などがいないと血液検査は実施できないため、健康増進施設では血液検査や生化学検査を効果指標とすることは現実的ではありません。
そこで、身体活動量と身体機能を効果判定の指標とすることが現実的です。
ウエアラブルデバイスの活用
「1人1人の身体活動量なんて把握できない!」
「何から始めていいかわからない…」なんて意見も出てくると思います。
そんな方々に朗報です!
身体活動量を把握する方法としてウエアラブルデバイスがあります。
GPS、加速度センサー、心拍センサーなどが内蔵され、コンパクトに設計されているため、利便性が非常に高い点がポイントです。テクノロジーの発展により、アプリケーションでエネルギーバランスを把握できるようになりました。
長崎県や五島市でもウエアラブルデバイスを活用したアプリケーションが開発され運営されています。
長崎県「ながさき健康づくりアプリ」
五島市「五島市健幸アプリ ぎばっと」
https://www.city.goto.nagasaki.jp/s057/010/010/120/20210311140313.html
おわりに
五島市では車がないと生活ができません。
街中を徒歩で移動しているのは学生しか見かけません。
そのため、運動への意識が低く、生活習慣病の発症率が高いという現状があります。
BooSTは合同会社MYS様と業務提携を結び、AIを活用して医療従事者の不足しているという問題を解決するために動き出しました。
一緒に五島市の未来を変えるための活動をしてくれる仲間を募集していますので、離島の医療・福祉にご興味がある方はご連絡ください。