こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「地域で“一次予防”に取り組む意味」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「理学療法ジャーナル 2020年3月号 地域における予防の効果」を参考にさせていただきました。
埼玉県立大学 保険医療福祉学部 理学療法学科 教授 吉田俊之氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://www.spu.ac.jp/academics/db/tabid334.html?pdid=339yoshi
健康とは?
突然ですが、「健康」について説明してくださいと質問されたら何と答えますか?
医師や理学療法士などの医療従事者が真っ先に思い浮かべるのは、世界保健機関(World Health Organization:WHO)の「WHO憲章」だと思います。
https://japan-who.or.jp/about/who-what/identification-health/
これによると、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう」と定義されています。
この定義でポイントとなる点は、経済活動や社会活動を通して社会の中で生活していなければ健康ではないということです。
現代の人々は、ライフワークバランスが取れた生活を送ることができていない傾向にあります。
生活習慣病などの病気で身体的健康を損なっている方、学校や職場で精神の病気を患っている方、ご両親の介護などを原因に社会的に孤立している方など、何かしらの問題を抱えています。
この健康の概念に関しては見直しが必要な時代に差し掛かっているのかもしれません。
医療技術の進歩が生んだ弊害
平均寿命の延伸が生んだ弊害
WHO憲章が公表される以前は、コレラやペストといった感染症による健康の維持が問題でした。
そのため、“健康 = 寿命“と捉えており、治療が最優先でした。
しかし、医療技術の進歩や、公衆衛生の改善によって平均寿命を延伸することに成功しました。
一見すると感染症を克服して平均寿命を延伸できた話はメリットしかないと思いませんか?
しかし、実は疾病構造が変化しただけに過ぎません。
1950年代まで死因の第1位は「結核」でした。
令和3年死因の第一位は「悪性新生物」となりました。他にも“生活習慣病”に関連する疾患が死因の上位を占めるようになりました。
国民医療費の現状
令和2年度の日本の国民医療費は約42兆円でした。1人あたりの国民医療費は約34万円という計算です。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/20/dl/data.pdf
図のように国民医療費は増加の一途を辿っています。
なぜ国民医療費が増加しているのでしょうか?
実際の原因は十分に解明されていないので憶測に過ぎませんが、高齢者の割合が短期的に増加している点と、医療技術の発展が発展したからではないかと言われています。
令和2年版高齢社会白書によると、高齢化率は28.4%となっています。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_1_1.html
高齢者の方々は複数の疾病を抱えて生活されていることも珍しくありません。
そのため、1日に病院をハシゴするなんて珍しくありません。1人あたりの国民医療費も増加するのが納得です。
高血圧関連疾患と糖尿病は、医療費を圧迫している主な原因となっています。
現在は、疾病構造が変化している背景から、オタワ憲章でhealth promotion(健康増進)という概念が提唱されるようになりました。
https://plaza.umin.ac.jp/~jshp-gakkai/pg181.html
オタワ憲章は「健康は管理することで改善できる」という発想が特徴です。
健康は日常生活を送るための資源であり、個人と社会どちらにとっても掛け替えのない資源ということです。そのため、health promotionは医療従事者だけの責任ではなく、1人1人が健康に対して真摯に向き合わなければならないといけないことを示唆しています。
日本では“予防”に関する意識が希薄な印象を受けます。教科書や論文にも治療に関する記述が多いことも問題です。このような状況では、医療体制を維持できなくなり、皆さんの健康を脅かすことにもなりかねません。今のうちから意識をアップデートさせましょう!
”予防”が浸透しない理由
では、なぜ日本では“予防”が浸透しないのでしょうか?
その1つの原因として病院を受診しても低額で診療ができる点が挙げられます。
1972年に老人福祉法が改正されました。その内容は高齢者の医療費を無償にするという驚きの内容でした。これにより、1970〜1975年の5年間で医療機関の受療率が約1.8倍となり、病院の待合室が公民館のような状態になったと報告がされています。
また、社会的入院による影響も考えられます。
在宅で介護、看護、リハビリテーションを提供する制度が整備されなかったことで、医療機関が福祉施設の役割を果たさなければならなくなりました。
このような時代的な背景が原因で予防が浸透しない要因となっています。
健康日本21
オタワ憲章は日本の医療・福祉にも多大な影響を及ぼしています。
日本では「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」という政策の中でオタワ憲章の概念が盛り込まれています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html
生活習慣病に関連する疾患が死因の上位を占めるようになったことから、生活習慣病の早期発見・早期治療だけで終わるのではなく、health promotionとして疾病の発症を予防する“一次予防”が大切だということが言われるようになりました。
「運動」・「栄養」・「睡眠」が健康の柱となっていることは一般常識だと思います。
様々な疾患において、改善のためには運動が必要不可欠だという報告がされるようになってからは理学療法士の価値も上昇しました。
きっと運動の重要性や必要性を理解している方は多いと思います。しかし、予防のために実際に運動をされている割合は非常に少ないのが現状です。
男性 | 女性 | |
総数 | 33.4% | 25.1% |
20〜29歳 | 28.4% | 12.9% |
30〜39歳 | 25.9% | 9.4% |
40〜49歳 | 18.5% | 12.9% |
50〜59歳 | 21.8% | 24.4% |
60〜69歳 | 35.5% | 25.3% |
70歳以上 | 42.7% | 35.9% |
20〜64歳 | 23.5% | 16.9% |
65歳以上 | 41.9% | 33.9% |
健康日本21でも自宅でできる筋力トレーニングのプランが公開されており、運動により健康を改善してほしいという意図が見えます。
しかし、一人で運動をしようと思っても絶対に長続きしません。友人とコミュニケーションをとりながらウォーキングしたり、ジムなどで知り合った方々と筋力トレーニングをした方が絶対に長続きします。
その中でより効率的な運動の方法を提案できるのが理学療法士です。しかし、理学療法士は病院で勤務しているため、なかなか健康な方々にお会いすることが叶いません。
今後はBooSTの事業の一環として積極的に一次予防に携わっていこうと考えております。
健康日本21(第二次)
健康日本21(第二次)では、“自立”というキーワードが出てきました。
日々の生活の中で運動の時間を確保することは容易ではありません。
そこで、日常生活の中で家事などを運動と見立て、生活の中で適度な運動を習慣化させることを目標に設定されました。
各家事で具体的な運動強度を設定しており、それに沿って運動を行ない、目標を達成してくださいという点がポイントです。
・皿洗い(1.8メッツ)
・動物の世話(2.3メッツ)
・洗濯(2.9メッツ)
しかし、運動強度なんて初耳だという方もいらっしゃると思います。
循環器のリハビリテーションでは頻回に用いらており、私も運動強度を調整しながら治療に携わっていました。
理学療法士が専門的な知識を持っているので、健康への“投資”や“予防”をされたい方や、理学療法士がいない介護施設の担当者の方はBooSTにご相談ください。
さらに今回、健康日本21(第二次)で革命が起こったことをご紹介したいと思います。
それは、“まちづくり”にフォーカスが当てられている点です。
この目標を達成するために5つの柱を設定しています。
フレイルを予防する意味
“予防”の範囲は生活習慣病だけではなく、フレイルの対策も行われなければなりません。
フレイルは身体的フレイル、社会的フレイル、精神的フレイルがあり、有病率を算出するのが非常に難しいという特徴があります。また、評価基準も統一されていない点も有病率を算出することが難しい原因の1つです。
今回は、地域で日常生活を送っている高齢者にJ-CHS基準で評価を行い、身体的フレイルと判定された方々を対象とした有病率をご紹介します。
この条件を基にすると、フレイルの有病率は11.2%とされています。高齢者の10人に1人がフレイルに該当すると考えられています。
フレイルは数年後に要介護状態へ進行する可能性が高いため、この段階で適切に予防することが日本の将来を考えても非常に意味があります。
フレイルの有病率は65歳以降は段階的に増加します。つまり、加齢による影響を大きく受けることが特徴なので、65歳から予防を開始しても手遅れだと言えます。
先週の記事で地域全体でスポーツグループへの参加を促すことは、健康増進や介護予防に効果的である可能性が高いことが示唆されていることを解説させていただきました。
もちろんフレイルも例外ではありません。
スポーツグループへの参加率が高い地域は、転倒経験がある前期高齢者が少ない傾向にあると指摘されています。
スポーツの力を侮ってはいけませんね。
おわりに
この記事でお伝えしたいことは1つです。
健康を維持するために運動をして“予防”をしましょう。
health promotionは医療従事者だけの責任ではありません。重症化した状態で病院にいらっしゃても治療の選択肢はほとんど残されていません。
医師、看護師、理学療法士は神様ではありません。我々も悲しんでいる方々を見たくありません。
私は将来的に健康格差は拡大することは必至だと思っています。明るい未来か、暗い未来か選択するのはあなた自身です。
1人でも多くの方々が明るい未来を選択してくれることを祈っています。