こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「アイススラリーで持久力と集中力を維持〜試合の終盤でも活躍できる選手になる方法〜」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「臨床スポーツ医学 2018年月号 暑さと熱中症対策-スポーツの安全とパフォーマンスのために-」を参考にさせていただきました。
筆者は広島大学院 人間社会科学研究科 教授 長谷川博氏と、
https://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.24bfdf1969f09c48520e17560c007669.html
広島文化学園大学 人間健康学部 スポーツ健康福祉学科 講師 鬼塚純玲氏です。
https://www.hbg.ac.jp/univ/teacher/?id=54&deptkey=10
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
はじめに
試合や練習で最高のパフォーマンスを発揮するためには、コンディションを調整して臨むことが成功の鍵となります。
しかし、暑熱環境では様々なストレスを伴うため、パフォーマンスの低下を実際に体験されている方も少なくないと思います。
近年は試合や練習が過密スケジュールの中で行われています。
コンディションの調節が間に合わず、本来のパフォーマンスを発揮できなくなるケースも散見されます。
「暑さに負けるな」
「倒れるまで走れ」
「走れない選手は交代する」
これ、“ハラスメント”です。
日本スポーツ協会(Japan Sport Association:JSPO)はハラスメントを許しません。
https://www.japan-sports.or.jp/cleansport/tabid1349.html
指導者は暑熱環境がパフォーマンスに及ぼす影響を知識として持っていなければなりません。
また、熱中症の対応や予防に配慮する必要もあります。
今回は、医学的根拠(Evidence Based Medical:EBM)に基づいて実践的な知識を共有したいと思います。
体温と持久性運動能力の関係
スポーツの成績は体温に強く影響を受けます。
適度な体温の上昇は運動効率を高めます。
しかし、気温が上昇した中で運動を長時間行うと、体温が過度に上昇し、運動効率が低下します。
暑熱環境下で持久性運動を行なった場合、深部体温が約40℃に達すると運動が遂行できなくなります。
運動の継続を制限する臨界体温まで達すると、呼吸器系、循環器系、代謝系、中枢神経系の機能不全を引き起こします。
試合の終盤に本来ではあり得ないミスをしてしまうのは中枢神経系のトラブルがあるからです。
そのため、クーリングを徹底することが勝利への鍵となります。
体温上昇と認知機能
暑熱環境における持久系球技競技では、中枢神経系のトラブルが生じ、認知機能や判断能力が低下することは先述しました。
持久性運動時の体温の上昇が認知機能に及ぼす影響について検討した研究があります。
体温が約38℃上昇場合、認知機能の向上が認められました。
しかし、体温が約39℃に上昇した場合、認知機能や反応速度が低下することが報告されています。
たった1℃の違いで雲泥の差が生じます。
暑熱環境で長時間の試合や練習を行う場合は、試合前と試合中の過ごし方が鍵を握ります。
試合の終盤でも活躍したい選手には必見の記事となっています!
暑熱環境における暑さ対策
試合は日々のトレーニングの結果が顕著に現れます。
夏季でもトレーニングの質を維持しなければライバルに差をつけられることは明白です。
しかし、暑熱環境では負荷が増大するため、実行することは困難な場合も多々あります。
また、高負荷のトレーニングを繰り返すアスリートは大会期間中にコンディションを崩すことも少なくありません。
そのため、体温の上昇を抑制するために適切な対策を講じることが重要です。
以下に具体的な対策と方法を提示します。
本稿ではクーリングの具体的な効果、タイミング、方法をお伝えします。
クーリングの効果
運動の30分前に17℃、36℃、40℃の水に浸かり、運動開始時の体温の違いがどのように持久性運動能力に影響を及ぼすか調査した研究があります。
17℃の冷水に使った場合、40℃の臨界体温に達するまでの時間が最も遅く、持久性運動能力が向上したことが報告されました。
この研究が契機となり、クーリーングの効果が広く認知されるようになりました。
最近の研究では30〜60分の持久性運動競技において有効性が高いことが示唆されています。
クーリングのタイミング
身体冷却を実施するタイミングは運動前のpre cooling、運動中のper cooling、運動後のpost coolingの3つに分類されます。
運動前と運動前のクーリングは試合の結果に直結することが示唆されています。
○pre cooling
運動前に予め体温を低下させておくことで臨界体温に到達するまでの時間を遅くする方法です。
○per cooling
今年から甲子園では“クーリングタイム”が実施されました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230806/k10014154921000.html
per coolingに関しては現在までに積極的な研究が行われ、ポジティブな成果が報告されています。
ルール上問題がない場合はper coolingを実施することが推奨されています。
クーリングの方法
クーリングには外部冷却と内部冷却の2つの方法があります。
一般的なクーリングはアイスパック、クーリングベスト、冷水浴などの外部冷却です。
特に冷水浴は効率的に皮膚温や核心温を低下させることが十分に証明されており、クーリングにおけるゴールドスタンダードとなっています。
しかし、過度な外部冷却は筋の温度を急激に低下させる場合があります。
最近はアイススラリーなどの内部冷却も注目が集まっています。
アイススラリー
内部冷却に関する報告として、4℃の飲料を摂取することで核心温が低下させ、持久性運動能力を向上させることが示唆されています。
最近は、より効果的な方法としてアイススラリーが注目されています。
アイススラリーはシャーベット状の飲料です。
大塚製薬もアイススラリーの商品を販売しており、大注目の商品となっています。
○100g×6本
アイススラリーは、効果的に身体内部を冷却することができることが示唆されています。
運動前に-1℃のアイススラリーを摂取した群と4℃の冷水を摂取した群に分類して、運動の遂行が不可能になるまでの時間を比較した研究があります。
アイススラリーを摂取した群は核心温が有意に低下し、運動の遂行が不可能になるまでの時間が有意に遅かったことが報告されました。
アイススラリーを摂取する群と冷水浴の群に分類して、持久性運動能力に及ぼす影響を比較した研究もあります。
アイススラリーを摂取した群は核心温が有意に低下し、冷水浴と同等の効果を示すことが報告されました。
磁気共鳴スペクトロスコピー法(Magnetic Resonance Spectroscopy:MRS)を用いて、アイススラリーを摂取することによる脳の温度変化を追跡した研究もあります。
アイススラリーを摂取した場合、脳の温度が有意に低下することが報告されました。
試合の終盤でも集中力を維持してプレーすることに貢献することを示唆しています。
先述した通り、アイススラリーの摂取はクーリングの中でもトップレベルの効果があります。
試験的に導入してみてはいかがでしょうか?
汗拭きシート
最近の汗拭きシートにはメントールが配合されており、ひんやりと気持ちよく感じます。
精神面にアプローチすることもパフォーマンスが向上する一助となります。
現場での応用
現場でクーリングを実施する場合には効果、タイミング、方法を十分に考慮する必要があります。
しかし、各競技のルール、個人の好み、設備などが影響するため、事前にコミュニケーションを取り、様々な方法を試行し、最適なものを選択する必要があります。
代表的なクーリングと特徴は以下の通りです。
まとめ
体温の上昇がどのようにパフォーマンスに影響するかについて解説しました。
また、クーリングの効果、タイミング、方法についても提示させていただきました。
今回の記事はアスリートや指導者だけではなく、一般の方々の熱中症予防にも効果を発揮します。
少しでも多くの方々の役に立つことを願っています。