【スポーツ講座】スポーツ栄養学総論|トップアスリートになるための栄養の基礎知識

【スポーツ講座】スポーツ栄養学総論|トップアスリートになるための栄養の基礎知識

こんにちは。BooSTの畠山です。

今回は「スポーツ栄養学総論」についてお話しをさせていただきます。

参考文献

今回は「臨床スポーツ医学 2018年11月号 現場で使えるスポーツ栄養学」を参考にさせていただきました。

筆者は神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 栄養学科 学科長 鈴木志保子氏です。

リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。

https://www.kuhs.ac.jp/department/professors/detail.html?id=51

スポーツ栄養の定義

まず、スポーツ栄養の定義を紹介したいと思います。

定義なんて興味ないという方もお付き合いください。

「運動やスポーツを行うために必要な物質をその身体活動の状況に応じてタイミングや量を考えて摂取し、これを体内で利用すること」と定義されています。

つまり、必要な栄養素を必要なタイミングや量を考えて摂取することが大切だと述べられています。

スポーツ栄養学の定義

次に、スポーツ栄養学の定義を紹介したいと思います。

「運動やスポーツによって身体活動量の多い人に対して必要な栄養学的理論・知識・スキルを体系化したもの」と定義されています。

つまり、科学的根拠(evidence)に基づいて栄養素やエネルギーを摂取するタイミングや量について研究している学問だと定義されています。

詳細はこちらのリンクをご参照ください。

http://kg-sport.com

スポーツ栄養学が必要な理由

アスリートにとってスポーツ栄養学が必要となる理由は主に2つあります。

①パフォーマンスの向上を目的に試合や練習に合わせた栄養素やエネルギーなどの摂取を行うためです。具体的には、試合や練習の運動強度、開始時刻、継続時間などを考慮して栄養素やエネルギーなどを効率的に摂取する必要があります。

②身体活動量の増加に伴い栄養素やエネルギーの摂取量に対応した栄養管理を行うためです。具体的には、栄養管理の必要性を(1)〜(3)にまとめることができます。

(1)身体活動量の増加に伴いエネルギーや栄養素が不足します。まず、食事摂取量を増加させることで不足するエネルギーや栄養素を補給することが最優先となります。しかし、食事摂取量には限界があるため、補給が追い付かない状況に陥ることがあるため栄養管理が必要となります。

(2)運動によって交感神経が優位な状況となります。交感神経は運動や仕事をしているときに優位となり、副交感神経はリラックスしている時に優位となります。運動や仕事をしている時にお腹がグーと鳴ることはありませんよね。そのため、交感神経優位の状態では消化機能の活動が低下し、栄養素やエネルギーの消化・吸収効率が低下します。

(3)副交感神経が優位となり効率よく消化・吸収できる時間は、アスリートは一般人と比較して短くなる傾向にあります。そのため、食事の質・タイミング・量を調整して栄養素やエネルギーの必要量を摂取しなければならなりません。

以上がアスリートが特に栄養管理が必要な理由となります。

アスリートの栄養やエネルギー摂取の考え方

食事摂取量に限界を感じた場合は、栄養素の優先順位を考慮して食事の計画を立てる必要がありますが、左記の(1)〜(3)をセルフマネジメントできるアスリートは多くはありません。また、医師・管理栄養士・理学療法士ですら頭を抱える分野です。

<ビタミンとミネラルの摂取を優先した献立を考えた場合>

ビタミンやミネラルは海藻や野菜などの副菜から摂取できます。

しかし、副菜の摂取量を増加させた場合、蛋白質や糖質を補給するための主食と主菜を十分に摂取することが困難となります。

そのため、アスリートにとって命とも言えるエネルギーの産生が低下し、不足分を「油を飲む」などの方法を選択しない限り解消することはできません。

<蛋白質と糖質の摂取を優先した献立を考えた場合>

「油を飲む」以外の方法でエネルギーを補給する場合、蛋白質や糖質を主食の摂取量を増加させる必要があります。

しかし、主食と主菜の摂取量を増加させた場合、ビタミンやミネラルを補給するための副菜を十分に摂取することが困難となります。

<アスリートの献立の考え方>

身体活動量の増加に伴い、栄養素やエネルギー必要量を補給するためのバランスが取れた食事量を確保することが困難な状況に陥った場合、相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sports:RED-S)の状態となります。

そのため、主食と主菜を優先的に摂取できる献立を考案しましょう。

不足分はサプリメントで補給することも選択肢の1つです。

しかし、成長期のアスリートは、栄養素やエネルギーを食事で補給できる範囲の身体活動量にセーブすることとも1つの手段です。あくまでサプリメントの使用は最終手段です。

お悩みの際は医師・管理栄養士・理学療法士など、病院に勤務できる医療職に相談をされてください。

脂質

ここからは栄養素の各論に入ります。

脂質は9kcal/gとなり、アスリートにとって効率よくエネルギーを摂取することができる栄養素です。

また、脂質は細胞膜を構成しており、生命活動を営む上でも非常に重要な栄養素となります。

エネルギー代謝量が増加した場合、脂質からエネルギーを産生することで消化・吸収の効率を図ることができます。

そのため、アスリートにとってエネルギー摂取を目的として脂質の摂取を考えた場合、日本人の食事摂取基準に明記されているエネルギー摂取量の20〜30%の摂取以上となる場合もあります。

脂質摂取量が総エネルギー摂取量の20%以下に陥った場合、脂溶性ビタミンの減少や必須脂肪酸の摂取不足に陥る可能性があります。

脂質の種類については、生活習慣病を予防する観点から日本人の食事摂取基準において不飽和脂肪酸の摂取量を総エネルギー量の7%以下に抑えることが明記されています。また、The Dietary guidelines for Americans 2015では10%未満とされています。

アスリートも同様に左記の基準に基づいて脂質の摂取を進めるべきだと考えられています。

水分

体内の水分は以下の(1)〜(3)の作用を担っています。

(1)運搬作業

血液は赤血球や白血球などを運搬して全身の細胞や組織に循環させる作用があります。

(2)体温保持作用

血液は体温を調整しており、恒常性の維持に貢献しています。

(3)溶解作用

体内で血栓が形成されても血液内のフィブリンという成分が作用することで血栓を溶解してくれます。

水分は恒常性を維持するために必要不可欠です。しかし、脱水状態に陥ることで(1)〜(3)の作用に影響が出てきます。

運動中の発汗量は1〜1.5L/時に達することもあります。水分を補給できない時間が長引いた場合、十分に発汗ができなくなり、運動により産生された熱を体外に放散することができなくなります。また、気温や湿度が高い場合、汗が蒸散しにくく、熱を十分放散できなくなります。脱水状態に陥ることで様々な症状が出現します。体重の1%の脱水で「喉が渇いた」と感じ、2%の脱水で「ぼんやりする」などの意識症状が生じます。そのため、アスリートや消防士のように発汗量が多い方々は運動中に2%以上の脱水状態に陥らないようにこまめに水分を補給する必要があります。

運動前は体内の水分を100%の状態にして運動を開始することが理想的です。

運動中は経口補水液やスポーツドリンクを摂取して脱水を予防することが重要です。運動中の水分補給については、0.1〜0.2%の食塩と約4〜8%の糖質が含まれたドリンクが適切です。

運動後は、失った水分を回復させるために水分を補給する必要があります。

同じ練習をしているにも関わらず、一部のアスリートが熱中症になる場合があります。それは、食事のタイミング・内容・量などが熱中症の発症に関係しているためだと言われています。バランスよく朝・昼・夕の食事を摂取することが熱中症の予防に繋がります。

体調不良にも関わらず運動をすることや、皮下脂肪量が多いこともリスクとして挙げられます。

発汗には、温熱性発汗以外と精神性発汗に分類されます。試合前に過度な緊張や興奮をした場合、精神性発汗も加味した水分補給が必要となります。スポーツドリンクなどの糖質が入った飲料で口を濯ぐことをマウスリンス(mouth rinse)と呼びますが、これにより、中枢性疲労の軽減(疲労感の軽減など)に繋がるという報告があり、心理面のコントロールについても水分補給は有効となります。

蛋白質

アスリートにとって蛋白質を摂取する目的は2つあります。

(1)運動中にエネルギー源として利用した蛋白質をリカバリーするために摂取する。

運動中に蛋白質を摂取してもパフォーマンスを向上させる効果は得られませんが、運動後の筋の蛋白質の回復や、グリコーゲンの再合成を促進させることに貢献します。

軽度の運動では蛋白質の増加させることを考える必要はありません。

中強度〜高強度の運動中では蛋白質の分解を予防するために、糖質の減少によって生じるアミノ酸からの糖新生を低減させなければなりません。そのため、運動前からグリコーゲンを十分に補充することや、運動中に糖を継続に摂取することが必要となります。

(2)運動後に筋肉を合成を促進するために必要な蛋白質(筋合成)を摂取する。

運動後の蛋白質の摂取は運動直後に特化するのではなく、1日を通して常に蛋白質の利用に応じた摂取が必要となります。また、インスリンの作用により、糖質の分解が軽減されることから、糖質の質・タイミング・量にも注目して摂取する必要があります。

蛋白質の過剰摂取については、国際オリンピック委員会(International Olympic Committee:IOC)が、「蛋白質の摂取量について、2〜3g/kg/日以上摂取しても筋の合成などに好影響を与えるという明確なエビデンスはない」と発表しています。

また、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」においても、IOCと同様に過剰摂取の明確な根拠はないことから、数値には示していません。しかし、適正量は明記されているため、適正量以上の摂取については注意が必要となります。

糖質

糖質はエネルギー代謝のメインとなります。

骨格筋は糖質であるグリコーゲンを利用することでスポーツ活動を行うことができます。

アスリートにおいて以下の(1)〜(3)が重要となります。

(1)試合や練習のパフォーマンスを維持するために事前に糖質を多く貯蔵する必要があります。

(2)試合中や練習中に身体活動量を維持するために糖質を補給しなければなりません。

(3)試合後や練習後リカバリーが必要となります。

左記の役割は、糖質の摂取量、質、タイミングを調整することによって果たすことができます。

糖質摂取量の目安をアメリカスポーツ医学会(Ameriacn College of Sports Medicine:ACSM)とアメリカとカナダの栄養士会の共同声明である「Nutrition and Athletic Performance」が3〜5g/kgと発表しています。例えば、体重50kgの人の場合、150〜250gとなり、100gの差は、エネルギーに換算すると約400kcalとなります。そのため、個人の身体活動量の状況に応じて調整する必要があります。

また、吸収の早い単糖類を選択するか、消化が遅い多糖類を選択するかも重要です。

食事中の糖質の摂取量が適切であれば、食事の糖質の摂取量を増量を考慮する必要がないと結論づけられています。

練習後の筋グリコーゲンのリカバリーについては、4〜6時間後は、炭水化物を約1〜1.2g/kg/h摂取することでリカバリー効果が最大限となり、糖質の摂取量が適切であれば24時間で回復すると報告されています。

ビタミン

アスリートにとって必要なビタミンは主に2つあります。

(1)ビタミンB群を摂取することでエネルギー代謝が円滑に行われます。

(2)ビタミンD群を摂取することで活性酸素を抑制する抗酸化作用が認められています。

アスリートは酸素の摂取量を抑制させた状態でトレーニングをすることができません。そのため、活性酸素の発生が増加します。抗酸化物質を積極的に摂取して活性酸素による悪影響を最小限にすることが求められます。

また、抗酸化物質を摂取するためには果物・ナッツ類・野菜の意識的に摂取することが理想的です。

しかし、抗酸化物質の補給がパフォーマンスを向上させるという報告は少ないため、サプリメントを摂取することは考えなくていいと思います。

ビタミンDはカルシウムとリンの吸収と代謝を調整している脂溶性ビタミンでもあります。近年は、ビタミンDが筋代謝に影響するという報告もあります。ビタミンDは紫外線B波(ultraviolet B:UVB)により活性型ビタミンDとなり、代謝に影響を与えます。そのため、ビタミンDの摂取量が十分でもUVBの照射時間が少ない場合はビタミンDの欠乏状態に陥ります。しかし、近年は、UVカットの衣料品や化粧品により、屋外の活動が十分でもUVBの照射量が不足し、骨粗鬆症などのリスクが増加する可能性が示唆されています。そのため、ビタミンDは食事摂取基準においても必要量は明記されておらず、許容量と目安量と提示する程度となっています。

ミネラル

減食や偏食によってミネラルの摂取量が減少した場合や消化・吸収の効率が低下した場合は、ミネラルの欠乏状態に陥り、パフォーマンスに影響を与えることがあります。

ミネラルの摂取量は、食事摂取基準の「推奨量」「目安量」を参考にして、食事からの摂取を基本に組み立てる必要があります。

ミネラルの摂取と相関が認められている鉄欠乏性貧血や疲労骨折は、偏食や減食によるミネラルの不足だけではなく、エネルギー摂取障害が原因となる場合もあることを考慮する必要があります。

おわりに

スポーツ栄養学は、対象となる競技や種目が多岐にわたります。

そのため、研究から得られたエビデンスをアレンジして活用することが重要です。

管理栄養士や公認スポーツ栄養士は、エビデンスの確認と活用について発展的に研究を進めており、啓発活動も行なってくれている重要な存在です。

相談する相手が医療系の国家資格を保持しているか確認することも重要です。

特に、医師、看護師、理学療法士は知識も豊富なので、相談に値します。

BooSTの代表は理学療法士なので、安心してご相談ください。

それでは、また次回のブログもお楽しみに!