こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「パラアスリートの栄養サポート〜基本編〜」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「臨床スポーツ医学 2018年11月号 現場で使えるスポーツ栄養学」を参考にさせていただきました。
筆者は盛岡大学 栄養科学部 栄養化学科 准教授 秦希久子氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://morioka-u.ac.jp/faculty/professor/hata-kikuko/
はじめに
2022年にスポーツ庁が発表した「第3期スポーツ基本計画」では、障がいがある方々が週1回以上スポーツを実施している割合として、7〜19歳が41.8%、20歳以上が31.0%と発表しています。
一方、1年間に1回もスポーツを実施していない割合は7〜19歳が26.9%、20歳以上が41.3%となっています。
今後は障がいがある方々が週1回以上スポーツを実施する割合を40%にすることを目指しています。
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1372413_00001.htm
栄養とスポーツは密接に関連しているため、パラアスリートの方々への栄養の教育の需要や必要性が増加することが予測されています。
障がいの定義
日本には障がいに関する様々な法律が存在しており、法律によって「障がい者」の定義が異なります。
今回は障害者基本法での定義をご紹介します。
障害者基本法では「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」と明確に定義されています。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html
障がいによって日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)に支障が生じている点がポイントです。
障害の分類
障害者手帳制度をご存知でしょうか?
障害者手帳制度では、障がいの種類によって「身体障害、知的障害、精神障害」に分類されています。
○身体障害
身体障外者には「身体障害者手帳」が配布されます。
等級は障がいの種類によって1〜7等級で判定されます。
原則として更新の必要はありませんが、障がいの進行に沿って再認定を実施することができます。
身体障害は「身体障害者福祉法」により5種類に分類されます。
(1)言語障害
言語障害とは、発声機能に障がいがある状態を指します。
コミュニケーションに不自由が生じます。
(2)視覚障害
視覚障害とは、視力や視野に障がいがある状態を指します。
白杖を持って移動している方々が該当します。
(3)肢体不自由
切断や麻痺により四肢に制限が生じている状態を指します。
病院でリハビリテーションを受けることになりますが、100%の状態に戻ることはありません。
生活習慣病の発症を予防することが重要です。
(4)聴覚障害
聴覚障害とは、聴力や平衡感覚に障がいがある状態を指します。
最も困るのは火災や地震などの災害が発生した時です。医療機関や行政と連携して十分に対策しておく必要があります。
(5)内部障害
内部障害とは、臓器に障害がある状態を指しており、以下の7種類に分類されます。
・肝機能障害
・呼吸機能障害
・小腸機能障害
・心臓機能障害
・腎機能障害
・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
・膀胱・直腸障害
○知的障害
知的障害者には「療育手帳」が配布されます。
療育手帳に関しては地方自治体が運営しており、東京都では「愛の手帳」という名称で呼ばれています。
等級は重度(A)とその他(B)で判定されます。
○精神障害
精神障害者には「精神障害者手帳」が配布されます。障がいの種類によって1〜3等級で判定されます。
等級は機能と状態から総合的に判定されます。
障害者手帳のメリット
障害者手帳が配布されることで企業や地方自治体から様々な支援を受けることができます。
・医療費の助成
・企業の障害者雇用枠への応募
・公共交通機関の料金の割引
・障がい者に対する手当
・所得税や住民税などの控除
・レジャー施設の入場料の割引
詳細は地方自治体によって異なりますが、様々な支援を受けることができるので、まずはお住まいの地域の行政機関にご相談することをお勧めします。
パラアスリートにとってのスポーツの意義
話が脱線しまくりましたが、本題に移りたいと思います。
突然ですが、パラリンピックをご覧になったことはありますか?
ご覧になったことがある方々はイメージしやすいと思いますが、特に陸上や水泳に関しては健常者と変哲がない印象を受けると思います。
パラリンピックの競技では、障がいの特性に合わせた器具の使用や、ルールの改正など既存のスポーツを修正、発展させたものが大半を占めています。
そのため、障がいを抱えているからといって大きな違いはありません。
その中でも「ボッチャ」は異色です。
「ボッチャ」は重度の障がいがある方のために考案されたスポーツでパラリンピックの正式種目です。現在では障がいの有無を問わず、誰でもプレーできる競技となっています。
ボッチャはジャックボールという白いボールに赤と青のボールをいかに近づけられるかを競います。
「陸上のカーリング」だと思っていただけたら、イメージがつきやすいと思います。
私もボッチャを体験したことがありますが、試合会場の熱気が凄かったことが印象に残っています。
では、なぜ障がい者はスポーツを行う必要があるのでしょうか?
障がい者にとってスポーツは、「全人類に共通するスポーツの価値に加え、心身のリハビリテーション効果を促進させ、就学や就業との自立の促進や社会参加を後押しする大きな役割がある」とされています。
特に、車椅子スポーツについては3つの役割があるとされています。
・社会に復帰するための心身の健康の維持・増進となる。
・地域でのスポーツ活動への参加が外出のきっかけや孤立の防止となる。
・パラリンピック大会が障がい者の能力に対する一般社会の偏見を打破する。
スポーツをされている障がい者の幸福度や主観的健康感が著しく良好であったことが報告されていることからも、障がい者にとってスポーツが果たす役割は予想以上に大きいと言えます。
パラアスリートのスポーツ栄養マネジメント
栄養とスポーツは密接に関連しており、障がいの有無に関わらず勉強しておいて損はありません。
今回、「パラアスリートの栄養マネジメント」と題していますが、障がいがあるからと言って特別な方法あるわけではありません。
栄養状態や健康状態などの客観的な指標を参考にして、食生活の問題点を自分で分析して不足している栄養素を積極的に補給するというセルフマネジメント能力を獲得することが重要です。
一般的にパラアスリートの食生活は良好であるとの報告がなされています。
しかし、パラアスリートへの栄養教育やサポート体制が十分にとれているとは言い難く、何かしらの課題や問題があるケースも散見されます。
例えば、「1人暮らで自炊が大変」、「体重管理の方法がわからない」などです。障がいの程度によりますが、抱えている悩みは健常者と大きな相違はないように感じます。
では、具体的な栄養マネジメントの方法を解説していきます。
(1)推定エネルギー必要量
健常者では推定エネルギー必要量を算出し、栄養や献立を立案していく方法が一般的です。
しかし、日本では肢体不自由者の推定エネルギー必要量の算出方法は示されていません。
その背景として以下の要因が挙げられます。
・基礎代謝量や身体活動量は個人差が大きい
・健常者と同様に評価できる指標が確立されていない
そのため、体重や体脂肪率などの指標や、身体活動量の変化を見ながら栄養や献立を立案しなければなりませんが、肢体不自由者の推定エネルギー必要量は健常者の推定式を代用しても差し支えないという報告もあります。
現状として、活用できるエビデンスはまだ少ないのが課題であり、今後の研究に期待しましょう。
(2)水分補給
○視覚障害の場合
視覚障害者の場合、以下の理由から水分補給を控えてしまう場合があります。
・自分がどれだけ水分を摂取したか把握できない
・自分のボトルを探すのが面倒になる
・自分のボトルが判別できない
そのため、以下の工夫を行うことで水分補給を促すことができます。
・水分をどれだけ摂取しているか伝える
・ボトルを手渡しする
・練習時には休憩時間を長めに設定する
チームとして水分補給をしやすい環境を設定することがポイントとなります。
○肢体不自由の場合
肢体不自由者では、健常者と比較して排泄に時間がかかるため、トイレに行く回数を減らすために水分補給を控える場合があります。
最も問題となるのは脱水症を引き起こすことです。
脊髄損傷の場合、損傷したレベルによっては自律神経が作用せずに発汗機能が障害される場合があります。そのため、気化熱による体温調節ができず、体温が上昇しやすいという特徴があります。
以下の工夫を行うことで脱水症を予防することができます。
・送風やミストなどを活用して体温の上昇を抑える
・練習時には休憩時間を長めに設定し、トイレに行きやすい雰囲気を作る
いかに心理的負担を軽減するための工夫ができるかがポイントとなります
○聴覚障害の場合
聴覚障害の場合、水分補給の必要性について教育を受けた機会がないという方も少なくありません。
そのため、水分補給に対する認識や理解について把握して対応することが求められます。
○知的障害の場合
知的障害者の場合、理想的な水分摂取量が理解できていない場合があります。
そのため、支援者が体重やボトルの水分量を計測して、水分摂取について把握しておく必要があります。
(3)体重測定
健常者でも日々の体重計測がエネルギー消費量と摂取量のバランスを評価する指標となります。
しかし、肢体不自由で車椅子で生活をされている方々は、以下の問題から体重測定を敬遠する要因となります。パラリンピックに出場される選手であっても体重測定を何年もしていない場合もあります。
・車椅子の重量を差し引いて計算しなければならない
・車椅子から移乗しなければならない
・自宅に体重計を設置する場所がない
以下の工夫を行うことで体重測定を促すことができます。
・体重計が設置されている施設では必ず測定する意識付けを行う。
・定期的に測定して経過を記録するように指示する。
教科書や論文では一言でサラっと書かれていますが、理学療法士の立場としてはかなりのエネルギーを消費します。お悩みの方は是非ご相談ください。
今後の課題
パラリンピック大会に出場するようなトップレベルのアスリートへの栄養教育に関しては、所属チームに医師、管理栄養士、理学療法士が配置され、スタッフ間で連携してサポートできることもあります。
しかし、一般的に障がいがある方々は機能訓練や社会参加のための目的が主体です。
そのため、スポーツ目線でのパラアスリートの栄養とスポーツが関連した論文は非常に少ないです。
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックが追い風となり、パラアスリートのサポートを行う管理栄養士や公認スポーツ栄養士の数が格段に増加していますが、全員がサポートを受けられるとは限りません。
これらの社会的な認識を変えるために是非行動を起こしていきましょう!