こんにちは。BooSTの畠山です。
今回は「慢性閉塞性肺疾患の呼吸困難感は呼吸パターンが原因!?〜サルコペニアの合併は最悪〜」についてお話しをさせていただきます。
参考文献
今回は「理学療法ジャーナル 2022年6月号 医療現場におけるサルコペニア・フレイル」を参考にさせていただきました。
筆者は東京国際大学 医療健康学部 理学療法学科 准教授 金崎雅史氏です。
リンクを記載しますので、詳細を知りたい方はご参照ください。
https://researchmap.jp/yusoyo5993
はじめに
サルコペニアは、筋力の低下と骨格筋量の減少が特徴です。
サルコペニアは、間質性肺疾患(Interstitial Lung Disease:ILD)慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPO)において主要な肺外病変です。
運動耐容能、健康状態、身体機能に影響を及ぼすため、サルコペニアを含めた病態を把握することは、良好な転帰を目指すために必要となります。
今回は運動器や呼吸器のプロフェッショナルである理学療法士がサルコペニアと呼吸器疾患の有病率、病態、有害健康転帰(adverse health outcomes)への影響、治療にフォーカスを当てて解説します。
サルコペニアと呼吸器疾患の有病率
サルコペニアと呼吸器疾患の合併は、呼吸器疾患の病理に特異性があるのか、年齢による問題なのか、疫学の観点から判断したいと思います。
Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)の定義では、サルコペニアの有病率は8%でした。
また、AWGSの定義を用いて、65歳以上の日本人を対象に行われたコホート研究では、男性は11.5%、女性は16.7%の有病率が報告されています。
コホート研究とは、ある特定の危険因子を持つ人が将来的にどのような病態に陥るかを追跡する研究を指しています。
更に、有病率を深掘りしたいと思います。
○COPDの場合
COPDにおけるサルコペニアのmeta-analysisでは、COPDとサルコペニアを合併している有病率は健常な方よりも高いことが報告されています。
meta-analysisとは、類似している複数の研究の結果を統合し、ある要因が特定の疾患と関連性があるか解析する方法です。
病態が安定しているCOPDの方を対象としたコホート研究では、握力と生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)をAWGSの定義に当てはめて診断すると、28.4%の有病率であると報告されています。
結論として、COPDにおけるサルコペニアは、健常な高齢者よりも有病率が高いことから、呼吸器疾患の病理に特異性があることが推察されます。
○ILDの場合
一方、ILDに関しては、AWGSの定義でBIAで20kHzと100kHzによる骨格筋量からサルコペニアの有病率を算出した報告があります。
この報告では、32.1%の方がサルコペニアと診断されています。
安定しているILDの方を対象した報告では、身体機能はサルコペニアと非サルコペニアで差が認められていません。
入院している方では、COPDとILDにサルコペニアを合併している割合は非常に高いと推察されます。
COPDの症状
COPDでは呼吸困難感が症状の主体となります。
COPDを発症すると、運動強度に比例して1回換気量が増大する“動的過膨張”を呈します。
では、具体的にどのように病態が悪化していくか深掘りしたいと思います。
<横隔膜の機能不全が生じる>
動的過膨張を呈することで横隔膜が下方に引き下げられ、扁平化することで機能不全が生じます。
胸郭の前後径と左右径が増大し、肋骨の拡張が制限されるため、空気の流入が制限されます。
立位や歩行ではエネルギー消費量が増大するため、呼吸困難感や疲労感を惹起してしまいます。
<体重が減少する>
動的過膨張を呈することで、胃の膨張も制限されます。
食事により胃が肺を圧迫することで呼吸困難感が生じ、食欲不振に陥ります。
栄養障害により体重が減少している場合が多いことも事実です。
<乳酸の産生が亢進する>
中等度から重度のCOPDの方は筋蛋白質が減少している場合が多く、高強度の運動を実施すると、乳酸が産生されやすい状態となっています。
筋が疲労する原因となり、身体活動量が減少し、最終的に生命予後は不良となります。
このような状態で、サルコペニアを合併すると、ADLが低下するのは一目瞭然です。
もし、呼吸困難感が生じた場合には、心理的に不安定な状態に陥ります。
過換気(hyperpnoea)により交感神経が優位となることでパニックに陥ることもあります。
重症化して治療を開始しては遅すぎます。
こちらも治療の選択肢がない状態では手詰まりです。
病院で医師や理学療法士による適切な治療を受け、早期治療による重症化予防が重要です。
COPDとサルコペニアが合併した場合にアウトカムに及ぼす影響
安静時の呼吸困難感によるADLの制限を評価するMedical Research Council(MRC)では生命予後を推察できます。
COPDの呼吸困難感を改善することの重要性に疑いの余地はありません。
以下の条件の同一運動負荷試験で、運動中の換気機能・呼吸パターン・呼吸困難感が研究されました。
実施時間 ▷ 3分間
段差 ▷ 20cm
ペース ▷ 16段/min
○換気機能の結果
○呼吸パターンと呼吸困難間の結果
COPDとサルコペニアを合併している方は、運動中の換気量に対する一回換気量が有意に低かったことが
報告されました。また、浅呼吸を呈していることが発見されました。
呼吸困難感と浅呼吸には相関が認められ、呼吸困難感の病態には動的肺過膨張ではなく、浅呼吸が深く関連していることが分かりました。
また、動的肺過膨張の指標であるdyspnea index(運動中最高分時換気量/最大分時換気量)と、最大吸気量(Inspiratory Capacity:IC)では、サルコペニアと非サルコペニアに差は観察されませんでした。
つまり、COPDとサルコペニアを合併している方の治療は浅呼吸を改善することが鍵となります。
サルコペニアと呼吸器疾患の評価
サルコペニアの評価の手順について復習しましょう!
2010年にThe European Working Group for Sarcopenia in Older People(EWGSOP)によりサルコペニアの診断基準が提唱されました。
2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)によってアジア版のサルコペニアの診断基準が
提唱されました。
AWGSのサルコペニア判定基準では、握力に問題が認められない場合でも、歩行速度の低下が認められると、骨格筋量の計測に進む手順となっています。
サルコペニアの判定に最も重要だと言っても過言でない骨格筋量の測定は「全身の骨格筋量を算出する」という原則があります。
そのため、生体電気インピーダンス法(Bioelectrical Impedance Analysis:BIA)や二重エネルギーX線吸収法(Dual Energy X-ray Absorptiometry:DXA)により全身の骨格筋量を算出する必要があります。
しかし、BIAは装置によっては約1割の誤差が生じる場合があるため、測定条件を統一しておく必要があり、退院や店員の際は注意が必要です。
身長が160cmの人と身長が180cmの人を比較した場合、後者の方が必要な骨格筋量は多くなります。
つまり、動作の遂行に必要な骨格筋量は身長や体重などの個人差が大きいことを表しているため、測定条件は統一もしくは補正をする必要があります。
骨格筋指数(Skeletal Muscle Mass Index:SMI)がスクリーニング検査に有効だと報告されています。
SMIは以下の式によって算出できるので、計算してみてください。
SMI=骨格筋量(kg)/身長2
しかし、これだけでは不十分です。
呼吸器疾患では、骨格筋の代謝に異常が生じるため、筋持久力が低下することが考えられます。
つまり、筋力と骨格筋量に問題がない場合でも、長距離の歩行も評価することが鍵となります。
そのため、6分間歩行テストなど、筋持久力も評価することが重要となります。
COPDに対する理学療法
COPDとサルコペニアを合併している方を対象に、呼吸器リハビリテーションへの効果を検討した研究があります。
外来で、多職種による運動と教育から構成されているプログラムを8週間受けた場合、残念ながら効果はなかったと報告されています。
しかし、この運動のプログラムは高強度の負荷が設定されており、軽度や中等度の負荷では有用な効果があるのかという疑問が浮かびます。
○resistance exercise
回数:10回×2set
負荷量:60%のRepetition Maximum(RM)
○有酸素運動
時間:10分間
負荷量:Incremental Shuttle Walking Testによる最大酸素消費量の80%の歩行速度
また、自宅で安全に実施するには安全面でのハードルが高く、推奨はされません。
COPDとサルコペニアを合併している方は、吸気筋力が有意に低下しています。
吸気筋力のトレーニングにより、呼吸パターンの改善と浅呼吸の是正が報告されてます。
両者を合併している方は積極的に吸気筋力のトレーニングを行う必要があることが示唆されています。
インターネットは多くの情報に溢れています。
しかし、医学的根拠(Evidence Based Medicine:EBM)が確立されているとは限りません。
そのような情報は信じず、あなたを担当している医療従事者の声に耳を傾けてください。
おわりに
サルコペニアと呼吸器疾患の有病率、病態、有害健康転帰への影響、治療について解説しました。
COPDとサルコペニアを合併した方の呼吸困難感の病態には浅呼吸が深く関連しています。
理学療法では、吸気筋力のトレーニングが重要となります。
これにより、呼吸パターンの改善と浅呼吸の是正が報告されてます。
両者を合併している場合は積極的に吸気筋力のトレーニングを行う必要があります。
COPDはサルコペニアを進行させる原因が多く、重症化を予防することが重要です。
BooSTは合同会社MYSと連携して訪問リハビリテーションを提供しています。
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